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二人は、茶碗を口元に運び、馥郁とした茶を口にふくんだ。
「ひょっとして……」
「――どうだ、良い茶であろう」
マガンがあることに思い当たり、口に出そうとするのを、アビが制した。
それに気づいたマガンは、話を合わせた。
「うん、良い茶だ。このような旨い茶に出会ったのは、十五年ぶりぐらいか」
「早いものだな。もう、それほどの月日になるか……」
アビの受け答えで、マガンは確信した。
――やはり王女か!
宗廟事変で行方不明となった王女は、太陽神の庇護のもとで育てられていたのだ。
相手がまだ気づいていないことを祈るばかりだが――、
「猊下、何をしでかすか判らん相手じゃ。十二分に備えておかれい。幸い、儂の領地は近い。手伝えることがあれば、何なりと申し付けられよ」
そう言わずにはいられなかった。
「うむ。よろしく頼むよ、元帥どの」
アビはマガンの気遣いに感謝し、茶化して返したものの、厳しい表情を隠せなかった。
マガンが以前感じたことのある、真綿で首を絞められるような嫌な感覚を、このときアビも抱いていた。
マガンは、各季節のうちに一度は、自分の領地に帰ることにしている。
しかし、今回はいつもと事情が異なっていた。
「武器と糧秣を確認しておけ」
領地の屋敷に着くなり家宰のザノアを呼びつけると、いきなり物騒なことを言いつけた。
「わけを伺ってもよろしいですか?」
謀反ならば、力を貸しませんよ、という含みがザノアの語気に含まれている。
マガンは、どこぞやの家宰とは大違いだ、と自分の家宰を頼もしく思った。
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