1/13
前へ
/344ページ
次へ

 マヒワは、マガンから「もう教えることはない」と言われて、「これ以上のことはウトゥのところへ行って修行してこい」と、王都の屋敷を放り出された。  王都守護庁の治安部隊への指導や稽古もあるのに、「何と勝手な言い草だろう」とマヒワは思ったが、一所にいるのも自分の性分でもないので、むしろ修行をやり直す良い機会と捉えて、王都を離れた。  ウトゥはマガンの実弟で、マヒワにとっては叔父にあたる人物であるが、御光流(みひかりりゅう)剣術の兄弟子(あにでし)にもなる。しかも、ウトゥも『剣聖』と謳われる剣の遣い手だった。  マガンは腹回りの恰幅が良いのに対して、ウトゥは肩幅があって胸板が厚く、背はマガンよりも頭ひとつ分くらい高い。禿げた頭と鋭い目つきが、近寄り難い印象だが、笑うとえくぼができて、マヒワ曰く、「かわいい」のだ。  ウトゥは自らが組織した護衛隊を率いて、かなり規模の大きな野盗の首領を退治し、組織を壊滅させた功績を称えられ、『剣聖』の(ほま)れを与えられた。  実戦経験も豊富で、数ある隊商の護衛隊のなかでも、野盗の類を撃退する腕前は群を抜いているという。それどころか、ウトゥが護衛に付くと、野盗たちからめったに襲撃を受けないという噂だが、 「そんなことあるかい!」  と、ウトゥがマヒワにぼやく。 「でも、そうでなければ、そんな噂が立たないでしょう。おじさまがいるだけで、みんな拝み倒してますよ。ありがたやー、ありがたやーって……」  二人は騎乗で移動しながら、和やかに話している。マヒワはもちろん愛馬のテンと一緒だ。その後ろには、弟子のアドウルとレイが付き従っている。  護衛隊は、隊商の本体を挟んで、二列縦隊になってゆっくりと進んでいる。
/344ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加