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序章
霧雨は路面をしめらす程度であがり、薄雲の合間からこぼれでた太陽の光が石畳にまだらの模様を描きだしたころ、王宮前の広場を、騎馬隊を従えた貴族が通っていた。
方向から察するに、私領地に戻るようであった。
隊列はお忍びであるらしく、旗も立てず、領主の乗っている箱馬車を中心に、前方に三騎、後方に五騎の軽装の騎兵を従えるのみだった。
ただ箱馬車に施された装飾や色づかいから、かなり高位の貴族と思われた。
やがて隊列は王宮前の広場を過ぎ、王都の西門に続く都大路にさしかかった。
「うおっ!」
突然、先頭の騎馬が竿立ちになり、乗っていた騎兵が振り落とされた。
甲冑の石畳にたたきつけられる鈍い音に続いて、子どもの泣く声を聞けば、隊列を避けて脇を歩いていた人々のほとんどが振り向いたとしてもおかしくはない。
打ち所を痛そうにさすっている騎兵と、落ち着かない様子の馬の前には、まだ幼い子どもの姿があった。
子どもに怪我はないようで、ただ驚きのあまり、泣きじゃくっている。
「こらッ! クソガキがぁッ! なにさらす!」
無様な様を見せてしまった騎兵は、腹いせに、飛び出してきた子どもを馬の鞭で打擲した。
騎兵は鞭で子どもを打ち据えて、大声を張り上げているが、あまりの怒声のため何を言っているのかわからない。
子どもは鞭の痛さに、さらに泣いた。
「おゆるしください! おゆるしください!」
そう叫んで、子どもを包むように己の背をさらしたのは、母親だった。
父親のほうは、鞭を振り下ろさせまいとして、騎兵の腕にしがみついている。
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