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去りゆく剣士を見送るもう一組の人たちがいた。
大神官長と神官たちの一行である。
「あれがマガン元帥のお嬢様か……」
という大神官長のつぶやきに、
「えっ! あの方は女性だったのですか?」
と驚く神官たち。
自分たちと同じような年齢で、あの立ち振る舞いの鮮やかさに、神官たちのざわめきは、なかなか静まらない。
「極限の不幸にあわれたのに、なんと爽やかなお子であろう」
「あの……、お子って、大神官長さまは、あの御方をご存じなのですか?」
そう大神官長に尋ねたのは、先ほど止めに入ろうとした神官だった。
「ああ、まだあの子の小さい頃をな。父君のことをとても好いておられた。母君も、あの子に馬や弓のことなど、いろいろ教えておられてな。ご家族でよく神殿に遊びに来られた。あの宗廟事変でご両親を亡くされて、マガン元帥の養女となられたのだ。マガン元帥が剣術の宗家もなさっていたので、弟子入りされ剣士となられた……」
大神官長は、神官に目を向けると、
「神殿にもよく似た境遇の娘がおったの。いらぬ事を申した。ささ、皆も行きましょう」
大神官長は目を伏せて詫びの気持ちを表すと、ざわつく神官たちをたしなめ、神殿へと歩みを進めた。
あれから一年が経とうとしていた――。
大神官長は、あの領主があの場にいたことに若干の胸騒ぎを覚え、何事か起こるのではないかと、人も集めてそれなりの体制を整えもしたが、日々の務めを重ねるうちに緊張が薄れていった。
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