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「そうだけど……」とあたしは真っ黒なワンピースとほうきをギュッと手で握った。
浴衣を着て座敷わらしの格好をしたさあちゃんが眉を八の字にする。それから、「あっ!」と突然、叫んだ。「知ってるか、絹香!」
「何?」
「魔女はな、女だけでなく男でもなれるんだぞ!」
突拍子もない話に、あたしは目をパチクリさせる。
「そんな話、聞いたことないわ」
「そりゃそうだ。だって図鑑に載ってたんだから!」
さあちゃんは味噌っかすだけど、本をひとりで読むことができて物知り。嘘だって一度もついたことがないの。
だからあたしは、その話を聞いて、少しだけ気が楽になった。
「ほんと?」
「ああ、ほんとだぞ! それにな、魔女は悪いやつだけでなく、いいやつもいる。映画でも、お届け物をする魔女がいるだろ!? ゲームの魔女だって勇者と一緒に旅をする!」
「そう、ね……」
「だろ? だから、真っ黒い魔女の格好をしてたって絹香は悪いやつじゃない! おまえはおまえだ」
「何よ……あたしのことを元気づけようとしてくれてるわけ? 弱いくせに生意気よ」
するとさあちゃんがギャンギャン犬みたいに喚き始めた。
「生意気ってなんだよ!」
「オメガはアルファに守られる存在なの。あんたにそんなことを言われなくても、あたしは平気!」
「俺だって、もう少ししたらアルファになるんだから!」とがなる彼の頭を軽く小突く。
「嘘よ、ありがと」
そうして、あたしと彼はずっと腐れ縁だった。何しろ寂れた田舎町にいたから、幼稚園で出会った子とは、引っ越しでもしないかぎり中学まで一緒に過ごすことになる。というか高校・大学に進学して他県の学校に行ったとしても、夏休み・冬休み・春休みになると町に帰ってきて、町でなかのよかった子たちと集まるなんてザラ。先輩たちの多くはそうだった。
頭のいいさあちゃんが、隣の市の進学校である高校に合格したときも、このままずっと過ごせると思っていた。
でも……そうじゃなかった。
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