虐殺ゲーム ~血塗られた教室~

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 俺が得た能力は、過去の自分との対話。SFの世界では、タイムリープという意識だけ過去に戻る物語が多いらしいが、それとは違う。  できることは少ない。過去の自分に耳打ちするだけだ。  この能力を知っている時代の俺とコンタクトするのは難しくないが、何も知らない自分と話して、信じさせるのは容易ではない。 「まず、聞かせてくれ。お前は友達が大切か?」 「当たり前でしょ。みんな、大切な仲間だ」 「じゃあ、もし、誰かが死んでしまったら悲しいか?」  小学生の俺は、眉を寄せて睨みつけてきた。『死ぬ』というワードが唐突すぎたか。 「廊下で電気工事の男にあっただろ。何か気が付かなかったか?」  時間がないので、俺は本題に入った。 「なんだか必要ない工具が多くて、不自然だなって思ったけど」 「クラスの皆が、奴に殺される」 「おじさんは、一体何を――」  俺は、小学生の自分の声を遮って言った。 「このあと担任の笹山先生が入ってくる。それから3分後だ。男が教室に入ってくる。時間がないからよく聞け。俺は事件が防げずに後悔したまま、この年になってしまった。だが、修行をしたおかげで、過去の俺と話す術を身につけた。お前が止めろ、拓海。死者は生徒が15名、先生が2人だ。この大惨事を防げるのはお前……いや、俺しかいない」  小学生の俺が、ゴクリと喉を鳴らした。  反論は返ってこない。どこまで信じたか不明だが、聞く耳は持ったようだ。 「武器はあるか?」 「野球のバットが、運動場の隅においてある」 「だめだ、取りにいく時間がない。他は?」  小さい俺は、ランドセルを開けて、中をあさった。整理整頓ができず、中はぐちゃぐちゃだ。今でも、整理は苦手だ。 「これが、使えるかも」  右手に握って差し出したのは、コンパスだった。先端に鋭い針がついている。無いよりはましか。 「よし、それを使おう」  ガラッと大きな音を立てて、教室のドアが開いた。 「席に戻ってください」  笹山先生は、いつも同じフレーズを口にする。  懐かしい。  だが、感傷に浸っている余裕はない。 「授業が始まると、お前は返答ができない。俺が一方的に話す。首を縦か横に振って、理解を示してくれ」  小学生の俺は、素直に首を縦に振った。 「犯人は教室に入ってきたら、まず先生の足を切って動けなくする」  小さい俺は目を見開いた。子どもには刺激が強い内容だ。 「すぐには殺されない。そこから、先生を人質に、生徒を一人ずつ殺していく。全員を机に伏せさせ、出席番号順に一人ずつ呼び出してな」  素晴らしい作戦が思い浮かんでいたわけではない。ただ、一人目が殺される前に反撃をする、それしか考えられなかった。  理由はもう一つあった。男が犯行をする前に、過去の俺が攻撃した場合、先に手を出したことになり傷害事件になってしまう。  反撃できるのは、男の犯行後ということになる。 「残酷だが、先生が切られても動くな。大丈夫、人質なので、殺されるのは最後だ。出席番号の一番は誰だかわかるな?」  机に座る俺は、首を縦に振った。 「石井君だ。彼が最初の被害者だ。石井の名が呼ばれたとき、彼はすぐには返事をしない。恐怖に駆られて声が出せないんだ。だから、お前が行け。本物が返事をする前に、お前が返事をしろ。犯人は油断している。コンパスをうまく隠せ。そして、怯えている振りをして、近付け。男は喉を掻き切って人を殺す。動きをよく見ろ。やられる前にやれ。お前ならできる」
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