虐殺ゲーム ~血塗られた教室~

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 僕は、この男に会っていた。作業着姿の男は、柔道でもしてそうなガッシリとした体格をしていた。  昨日のホームルームで「明日は電気工事があります」との連絡があったので、見知らぬ男が校内をうろついていても、誰も不審に思わなかった――僕以外は。  あのとき感じた不審感を、もっと突き詰めていれば、事前にこの事態を防ぐことができたのかもしれない。  腰のベルトに様々な工具を下げているのは、電気工事士としては不思議ではない。しかし、装備品が不可解だった。  刃物が異様に多いのだ。  ミリタリーグッズに興味がある僕は、それがサバイバルナイフだと一目で分かった。工事の際、線の皮をむくために電工ナイフを使う場合があるが、それとは明らかに形状が異なっていた。  廊下ですれ違ったとき、気が付いた。あのとき、すぐに先生に伝えるべきだった。  いや、無駄だったかも。犯人は正式なルートで工事を受けて、ここに来たみたいだ。不審者だと声をあげると、僕の方が頭がおかしいと思われる。 「出席番号15番、次は中村……奈々っていうぐらいだから、女か。出席番号がもっと後ろだったら良かったのにな。ヒヒヒ」  僕の番が目の前に迫っていた。僕の名前は『西村 拓海』。出席番号16番。中村さんの次だ。  男が名前を連呼するが、返事がない。  恐怖で声が出なくなっているのだろう。奈々は、窓際で小説を読んでいるタイプの女の子だ。 「じゃあ、誰か教えてくれ。どの子が中村 奈々なのか。そうだ、名案を思いついた。教えてくれた奴は、このゲームから外してやろうじゃないか」  この男は、悪魔だ。  授業が始まると同時に、教室に突然、入ってきた。まず、不審そうな視線を向ける先生の足にナイフを突き立て動けなくした。  そして「これから、ゲームを始める」と言った。出席番号順に前に出てきて、男と話すというものだ。そして、自分の番が来るまで、机にうつ伏せになるように指示した。 「な、中村は、こいつです」  奈々の後ろの席から、男子の声がした。裏切ったのは、渡部だ。渡部の声が終わる前に「ひっ」と女の子が奇声を上げた。  男の足音がそちら側へ移動していく。 「ありがとう、君は?」 「僕は……渡部です。た、助けてくれるんですよね」 「おしかったな。君は顔を上げた。伏せたまま、教えてくれたら助けてやれたんだが。ルール違反だ」  直後に、形容しがたい叫び声が響いた。そして、渡部の声がしなくなった。 「『わ』まで、しばらくあったのにな。ご愁傷様。じゃあ、予定通り、中村さんを」 「ヒャッ」  奈々は小さな悲鳴を一度上げただけで、瞬殺された……ようだ。次は僕の番。  感覚が麻痺していた。恐怖が極限を超えて、夢の中にいるような感覚だった。 「じゃあ次、西村……西村 拓海!」  僕はゆっくりと顔を上げた。逃げることはできない。 「ひっ、ひっ」  自分の顔が引きつっていくのが分かった。教室の中は、血の海地獄だった。  教卓の横に、死体が折り重なって積まれていた。血しぶきは天井と、前の方に座る生徒に飛び散っていた。  少し前まで、楽しく話していた教室だったとは想像できない。僕も、あの死体の山に積まれるのだ……。 「なっ、何してやがる!!」  教室のドアが大きな音を立てて開いた。  飛び込んできたのは、男の先生――剛田先生だった!
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