虐殺ゲーム ~血塗られた教室~

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* * *  その夜、俺たちは板の間にあぐらをかき、師匠を囲んで夕食をとっていた。話をするものはおらず、俺は切り出すタイミングが見つけられずにいた。 「ごちそうさま」  師匠が、夕食を綺麗に平らげて両手を合わせた。ああ、今日は言い出せなかった……質問はまた明日にでも、そう思ったときだった。 「何か、話したいことがあるようだな」  師匠はお見通しだった。雰囲気を汲み取ったのだろう。山内が俺の方をちらりと見て、小さくうなずいた。 「師匠、単刀直入に質問します。村で聞いたのですが『100日修行』なるものがあるそうですね。どんな修行なのか、教えていただきたいのです」  師匠は、弟子たちに順に視線を向けたあと、しばらく沈黙してから口を開いた。 「その修行を乗り越えると、一気に真理に近付くことができる。寺が創建されて1500年、この修行に耐えた者は、片手で数えられるほどしかおらん」  弟子の全員が無言で目を見開き、師匠の言葉に耳を傾けていた。一気に真理に……それは、誰にとっても魅力的な響きだった。 「100日修行は、己を試す修行。私は毎年、この修行を行っておる。油断すると、あっという間に真理から遠ざかる。そうならんよう、自分を戒めるためにな」 「毎年、数か月、寺を空けられるのは、それが理由だったのですか?」  秋になると師匠は3ヶ月ほどいなくなった。俺は詳細に問うたことはないのだが、師匠はどうやら位の高い僧らしかった。その関係で、本部かどこかに行っていると思っていた。 「興味があります。どんな修行でしょうか?」 「聞いてしまうと、後には引けんぞ。チャレンジして失敗したら、ここを去ってもらわなきゃならん。そういう規律だ」  俺の喉がゴクリと鳴った。ここを去ると行き場所がない。だが、このままでは八方ふさがりなのも事実。 「山の奥深くに小屋がある。さらに進むと、修行場となる滝がある。修行に入ると100日間、黒い布で目隠しをして過ごすことになる。小屋から約10キロ離れた滝まで行き、夕方まで打たれて、また戻る。それを繰返すだけじゃ」 「目隠しをしたままでしょうか?」 「その通り。簡単だろ」  山道を10キロも、目隠しをして移動する。その困難さは想像できない。 「修行の間は、誰とも話してはいかん。対話できるのは自身のみ。心配するな、一度は目隠しなしで滝まで連れて行ってやる。あと、飯は小屋まで持って行ってやる。もちろん、目隠しは付けたまま食うてもらうが」  師匠は楽し気に、ケタケタと笑った。 「安易に挑戦するような修行じゃないから、秘密にしておった」  俺は思案した。  成功して真理に近付くか、失敗してここを去るか。  師匠が、よいしょと立ち上がる。部屋の奧の棚から何やら取り出し、俺の元へもってきた。 「これは……」  古びたアルバム――小学校の卒業アルバムだった。 「お前に返しておく。今のお前なら、冷静に見られるはずだ」  俺はこれをリュックサックに入れて、山をさまよっていた。修行に入るときに、師匠が「これは預かっておく」と取り上げられたのだ。  指先を震わせながら、最後のページを開いた。  亡くなった人の名前と、追悼の言葉、そして、新聞記事。 「うっ」  胃酸が込み上げてきて、思わずうめき声を上げてしまった。 ――まだ、だめか。  俺はアルバムを閉じた。そして、ひとつ深呼吸をした。 「修行、やらせてください。私は真理に近付かなければならない。でないと、亡くなった者たちが、うかばれません」 「一晩、考えたまえ。明日の朝、気が変わっていなければ、挑戦するがいい」  俺の気は変わることはなく、翌日から100日修行に入ることとなった。
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