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「おかえりなさい。100日修行に耐えるなんて、大変なことですよ」
お手伝いのおばさんが暖かく迎えてくれた。
今日の晩御飯は他の弟子も含めて、大人数だった。
「ここのカレーが恋しかったです。いただきます」
俺は100日ぶりのカレーを前にして、手をあわせた。
その時だった、また脳内にイメージが走った。山奥の小屋で修行を終えた場面だ。眼下に師匠と俺の姿が見えた。空中から2人を見てるようだ。
――今日の晩御飯はカレーだぞ。豚肉入りのな。
眼下の自分に語り掛けた。その瞬間、これまでに感じたことがない感覚を得た。眼下の自分と心が通じた気がしたのだ。
俺は、はっとして、カレーにがっついている師匠を見た。
「師匠!」
「なんじゃ、はよ食わんか。カレーは暖かい方が美味い」
「今、不思議な感覚を得ました。山にいる自分、数時間前に小屋で修行を終えたときの自分と、心が通じた気がしたのです」
師匠の顔から表情が消えた。鋭い視線で俺の方を見る。
「本当か?」
「はい」
「それが私が言う『真理』という状態じゃ。よう、たどり着いた」
他の弟子たちも、食べる手を止めて、俺たちの会話に釘付けになっている。
「自己の真理とは、すなわち、過去の自分と対話をすること。それにより、後悔を解消することにある」
「私は今、小屋に居た自分と会話をしたということですか?」
「その通りだ」
にわかに信じがたい。しかし、それが事実なら……。
「語り掛けたことで、過去の自分が行動を変えた場合、未来はどうなりますか?」
「未来は、行動に応じて変化をする。それだけだ」
過去の自分にメッセージを届けることができる……。
「小学生の自分に、メッセージを届ける。そうすれば、事件を回避することができるかもしれない。その理解で正しいでしょうか?」
「おまえは、自身でその力を得た。あとは、自分が決めることだ」
俺は席を外して、卒業アルバムを手にして戻ってきた。最後のページを開いた。これを見ると決心がつく気がした。
「やります。そして、クラスメイトと先生の命を救います」
「分かった。しかし、お前の力はまだ弱い。数時間前の自分との対話がせいぜいじゃ」
「そんな……」
「だから、これをお前に渡そう」
師匠は俺に近づいて、右手を差し出してきた。
「師匠がいつもお持ちの、水晶玉」
「この石は、真理の力を増幅することができる。今のお前なら見えるだろう」
俺は受け取った水晶玉に目を凝らした。
見える、見えるぞ!
そこには、家を出る小学生の俺の姿が映っていた。
「師匠、見えます!」
「じゃあ、念じるがいい。過去の自分と対話できるだろう」
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