愛おしい人

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書店は郊外の大型ショッピングモールの中にあり、そこそこ広い売り場面積だったがチェーン店などではなく、私も知らない書店名だった。 至る所に書店員のオススメコメントのポップが置かれていた。 天井から吊るされた案内に沿って奥へ進むと、 明るい書店内にひっそりと佇むスペースこそが『自費出版コーナー』だった。 一般の書籍は作者名の五十音順だが、こっちはタイトルの五十音順だった。 「『ヘアメイクであなたも変われる』」 早耶が悟志の本のタイトルを呟きながら真剣な顔で探している。 なんとも捻りのないタイトルではあるが、私が悟志をディスるのは違うなと口には出さなかった。 私も少なからず自費出版には興味があったので何冊か気になったのを手に取ってみる。 しかし、心に響くような本はなかった。 「春陽、これ!」 「ん?あったの?」 「違うよ、お(にぃ)のはないよ、じゃなくてこれって……」 早耶が手にしている本の作者の名前は『美知(みち)ハルキ』 それは私のペンネームだった。
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