6人が本棚に入れています
本棚に追加
両親は、私が小学2年の時に離婚した。
それも私にとっては突然のことだった。
学校から帰ってくると珍しく母が在宅していた。
母は私を見ると、駆け寄り抱き締めた。
「春陽、パパはね、ママ以外の女の人のところに行ったの。だから今日からふたりで生きていくのよ」
この前、テレビで言っていた『ふりん』というワードがふと私の脳裏に浮かんだ。
俄には信じ難かった。毎晩、私に本を読んでくれた優しい父が家族を捨てて……。
けれど、それも母の泣き崩れる姿を見て信じざるを得なかった。
母は私の前で取り乱すような人ではなかったから。
父がいなくなったからといって、お金の面で困ることはなかった。
母はそれなりに知名度のある書道家だった。声が掛かれば全国どこへでもパフォーマンスや講演をしに回った。テレビや雑誌といったメディアの仕事もあった。
それは以前と変わりなく、私もその間は祖母の家で生活していたから母子家庭になった気もしなかった。
私が父を忘れかけた時でも祖母は父のことを話した。
「パパとママは仲悪くなかったと思うんだけどねぇ」
「パパはとても優しい人だったよ、おばあちゃんにもね……なのにどうしてかねぇ」
祖母は婿がたいそうお気に入りだったらしい。
毎回、そんなことを聞かされていると私もだんだんウザく思えてきた。
「おばあちゃん、パパのことはもういいの!理由はわかんないけど、他の女の人のとこへ行くためにママと私を捨てたのは間違いないんだから!」
小学高学年になった私は大人びた言葉で父を罵倒していた。
最初のコメントを投稿しよう!