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 彼女との想い出に浸りながら、袋の中の物を確かめていた僕の手が、ふと止まる。  見つけたのは、彼女から貰った手紙が入れられている封筒の束だった。  僕は封筒を束ねていた輪ゴムを外すと、切手に捺されている消印を元に、送られてきた日付順に並べ変えていく。  それらの封筒の多くには、可愛い猫の写真がプリントされていた。  彼女は猫が好きだったのだろうか?  いまいち上手く思い出すことが出来なかった。  今更、そんなことを気にしても仕方がないのに、僕は、そのことが気になった。  その当時、僕は彼女に猫が好きかどうか、尋ねたのだろうか。それとも、当時の僕は、そんなことに関心を示さず、話題にもしなかったのだろうか。それとも、話題にしたのに、彼女が話したことを忘れてしまったのだろうか。  いずれにせよ、思い出せないことが、衝撃だった。  あんなに好きだった彼女のことを、僕は少しずつ忘れてしまっているのだろうか。
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