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だが子供が十二になる頃男が死んだ。河原に投げ捨てられた傷だらけの育ての親の亡骸に縋り子供は大声で泣いた。
後から男が悪い人間たちから大金を借りていたことを知った。男は金を返すために子供に盗みを働かせていたのだ。それを知っても子供は親を恨まなかった。
子供はインチキ霊能力で金稼ぎを続けたがやがて見破られ、詐欺師と呼ばれ石を投げられ路頭に迷う羽目になった。
彼はある日飢えていたのを宿屋を営む女主人に拾われ、宿の手伝いをして働くようになった。
彼はそこで文という娘と出会う。彼女は彼がこれまで会ったことのない、美しく穢れのない心を持つ娘だった。
同い年の二人はすぐに意気投合し一緒に成長し、やがて結婚した。
平八が二〇の頃のことである。
優しい心の文と関わるうちに平八の心も穏やかになり、悪事から足を洗い堅実に暮らしていくことに決めた。
二人の子に恵まれ家族四人幸せに暮らしていた。
だが五年後その幸せは壊された。
平八の家が深夜何者かに放火され妻と子供二人が死んだ。たまたま留守にしていた平八だけが助かった。
一夜のうち大切な家も幸せな家庭も全て失われてしまった。
天罰が下ったのだと平八は思った。
彼は暫く悲嘆に暮れ酒浸りになった。やがて放火をした人間を激しく憎む様になった。彼から愛する妻子と全ての幸せを奪った人間を。
聞き込みを続けるうち相手は以前平八に騙されて金を奪われた老人と知った。飲んだくれのその老人は、酒を飲んで判断力を失っていたときに平八のインチキ占いに騙されて大金を失ったのだった。
平八は血眼でその老人を探し回った。
そして十年後遂に老人の住む家に辿り着いたとき、老人は半分以上呆けて平八のことも自分の犯した罪についても忘れていた。
平八は老人を再び騙し、ボケが治る水をだと嘘をつき桶に入った川水を高値で売った。
妻子と家を奪われた復讐を果たした平八は清々した。
それから平八は再び悪事に手を染めるようになった。
インチキ占いをしながら旅を続け、やがてあの漁村に辿り着いた。
世間知らずで純朴な田舎の人間達を騙すことは難しくなかった。人々はそれらしい助言をくれる平八を先生と呼び誉めそやし、金の他に魚や野菜を持ってきた。やがて平八はそこに住居を構え怪しい商売を続けた。
過去のことは思い出さないようにした。心を閉ざした平八は、あまりに辛い思い出に蓋をしていたのだ。
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