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「過去はあなたの犯した罪や憎しみの記憶だけじゃない、幸せなこともあったはずだ。あなたはそれを忘れたふりをして悪事を重ねた。あなたが誰よりも欺いていたのは自分自身だ」
李翔の言葉に平八は肩を震わせ大粒の涙を流した。そして蹲り大声で泣いた。
彼は世の中を、人を恨み欺き続け美しい思い出を忘れようとしていた。
文と子供達と過ごした思い出が平八の頭にもう一度走馬灯の様に蘇った。
文は平八の全てを受け入れ、過去の悪事も彼の孤独も理解し癒してくれた。平八も妻や子供達にひもじい思いをさせまいと必死に働いた。
その記憶は確かに彼の中にあり、魂の奥底で今も尚生き続けていたのだ。
李翔は平八に静かに語りかけた。
「人を欺くことは魂を奪うのと同等だ。騙した人間は得をするかもしれないが、騙された方は大切なものを失い、後悔と憎しみに取り憑かれ善良な心を失ってしまう。辛い現在に囚われる余り過去の美しい思い出すらも薄れてしまいそうになる。だがいつだってやり直せる、大切な過去があなたの魂の中にある限りは」
李翔は平八にそっと手を伸ばした。平八はその手を握り立ち上がった。
李翔が水晶に向かって何か唱えると、紫色の光の玉がゆらゆらと現れ、平八の胸に入って行った。
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