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李翔は家に戻ると奥の薄暗い板張りの部屋に入って水晶の入った箱を開け、神棚の前に置いて長い呪文を唱えた。その様子を平八も見守った。
やがて木箱の中の水晶から色とりどりの光の玉が飛び出て、ゆらゆらと宙空を彷徨った。鮮やかな光に照らされた部屋の中、平八は心を洗われるような神聖な感覚になった。これまで働いてきた悪事や感じていた怒りも憎しみも後悔も、全てが浄化されるようだった。
やがて光の玉達は思い思いの方向に飛んで行った。
「これで終わりだ」
そう言うと李翔は疲れ切ったようにその場に腰を下ろした。
「悪かった」
平八は膝をついて頭を下げた。
「お前さんには迷惑をかけた。俺は今までずっと悪いことばかりしてきたが、これじゃあ女房と子供らに示しが付かねぇ。今日から心を入れ替えて、金輪際インチキはやめる」
李翔は暫く黙って平八を見つめていたが、やがてふっと微笑んだ。李翔は相手が嘘を付いているのをすぐ見抜くことができたが、平八の言葉が偽りでなく本心から出たものと分かったのだ。
「頭を上げなさい。あなたにできるのは奥さんと子供に誇れるような良い人間になり、真っ当に生きることだ」
平八は大きく頷いた。
「約束する。それと頼みがある、あんたは嫌かもしれんが……俺を弟子にしちゃくれねぇか?」
李翔は驚いて白目を剥きそうになった。まさかこの男の口からそんな言葉が出ることは予想していなかった。
「この仕事は誰にでもできることではない、修行で積み上げられた知識と経験、そして特別な才能が要る。三日三晩で習得できるものでは……」
「俺に才能がないことも重々承知の上だ。だがどうか頼む! 役に立たないかもしれねぇが、あんたの荷物持ちくらいならできる」
李翔は考えさせてくれと答え、平八は頷いて立ち上がった。
帰り際平八は言った。
「俺が稼いだ金は壊れた町のために寄付するよ、全部俺の責任だからな」
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