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翌日の昼間平八は李翔の家に向かった。彼の家の庭には結界のようなものが描かれ、戸口に赤筆でおかしな絵が描かれた札が貼ってあった。平八は鼻で笑い彼の家の戸を叩いた。
やがて黒い着物に身を包んだ男が出てきた。彼は平八の顔を見るなり「来ると思っていた」と深刻な様子で言い平八を家に上げた。
居間の囲炉裏を挟んで二人は向き合った。平八の全身から澱んだ気が出ているのを李翔は感じ取っていた。
平八は李翔を無料で占ってやると言ったが李翔は拒んだ。平八は着物の懐から小さな水晶を取り出し李翔の胸の前にかざしてみた。するとそれは金とも橙ともいえぬ不思議な色に光り、すぐに元の透明に戻った。
おかしい。何故他の人間のようにいかないのか。
平八は首を傾げた。
李翔は平八から水晶を受け取りじっくり眺めた。
「これを誰から買った?」と李翔は鋭い目をして訊いた。
「酒場で会った男からだ」
平八がぶっきらぼうに答えた。
「質屋に売っていたのか?」
「そうだ、町の店に卸していた」
答えながら平八は歯軋りした。この男には何でもお見通しだ、自分の行動ですらも。
李翔はより顔を曇らせた。
「これは『御魂隠し』と呼ばれる、人の魂を奪う邪悪な力を持つ水晶だ。過去の記憶というのはその人間の魂と強く結びついている、魂の一部といっていい。魂を奪われた人間たちは気力を失い食べることも動くこともできなくなってやがて死ぬ。あなたは大変なことをした、このままではもっと大変なことになる」
李翔は平八に質屋まで連れて行くように頼んだ。
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