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異変
李翔は少し前から村の異様な様子に気づいていた。
最初に異変に気づいたのはある朝のこと。起きて海岸を散歩していると、いつも朝早くから漁に出ている人々が今日は一人も砂浜にいなかった。
おかしく思い村の家々を訪ね歩いた。一軒めの漁師の家の戸口で李翔は名前を呼んだが誰も出て来ない。暫くすると齢五つ位の小さな女の子供が出てきた。
「お父さんはいるかい?」
李翔が問うと子供は首を振り、「父ちゃんは起きない」と答える。
家の中に入ってみると、漁師の男は座敷の床に伏せって正気のない目で天井を見ていた。呼びかけても返事はない。昨日まで元気に働いていた男がすっかり魂が抜けたような様子に驚いた。
隣の家とその隣の家の人の身にも同じことが起きていた。男ばかりでなく女子供も同じように床から起き上がれなくなっていた。家族に訊くと、平八という人の占いに行ってからこうだと皆口を揃えた。
平八の名は村人数人から聞いたことがあった。インチキ占い師で適当な予言や戯言を教え込み大金を巻き上げるのだと。
更に聞き込みを続けると新たな事実が分かった。
平八は最近隣町にある質屋に出入りをしていて、占いが不調にも関わらず羽振りが良かったそうだ。
李翔はとても嫌な予感がした。その予感は見事的中した。
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