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奪われた魂
山を越える途中李翔は平八に何故こんなインチキ商売をしているのか、過去に何があったのかと尋ねた。だが平八は「お前さんには関係のないことだ、それに前は皆俺のことを信じていた。商売が傾いたのはお前が来たせいだ」と責任転嫁をする始末。
「お前にはいつか天罰が下る。もう下っているかもしれぬ」
李翔が言うと平八はひっひっひっと不気味に笑った。
「天罰なんて怖かない、今の俺は水晶で儲けているしいいことだらけだ」
李翔は嘆息した。この男は悪知恵が働く上自分の行いを悪行と認識していない。もうこの男とは関わりたくないとすら思った。
二人は隣町に辿り着いた。
だが質屋には『閉店』の張り紙が貼られたきり家の戸は閉められ人がいる気配すらない。
「ずっと休みなんですよ、病気になったとかで」
町人が不審そうに言った。
だが既に李翔は言いようのない嫌な気を感じていた。彼の目には禍々しい澱んだ気——どす黒い煙のようなものが店全体を覆っているのが見えていた。
李翔は家の戸を蹴破り中に入った。平八も後に続いた。薄暗い店の奥、一際濃い黒煙を上げる空間がある。
李翔は数珠を握りしめた。この空間全体が悪い気に侵され吐き気と眩暈を催すほどだった。店の奥に行くにつれて息苦しさは増し身体が重くなった。霊力の全くない平八ですらただならぬ邪悪な空気を感じていた。
壁際に中年の小太りの男がうつ伏せに倒れていた。李翔が仰向けにしてみると男は口から泡をふいていた。
「もう帰ろう」と怖気付いて言った平八を李翔は睨んだ。
「全てあなたが招いたことだ、落とし前をつけなさい。もう手遅れかもしれないが」
李翔が店主の首に手を当てると脈はなく既に事切れている。
男の周りには大量の水晶が散らばっていて、どの水晶も禍々しい黒色に変わり黒い煙をもくもくと上げていた。
「これはいけない!」
李翔が呪文を唱えようとしたが大量の煙の筋が意志を持っているかの如く空中で一つに纏まり、巨大な黒い蛇の形となって二人に襲いかかってきた。
「うわあああ!」
平八は叫び声をあげ腰を抜かした。
李翔が呪文を唱え札を投げると大蛇は一瞬怯んだがすぐに息を吹き返し、黒い煙を集めて更に巨大化した。やがて獣とも化物ともつかない不気味な叫び声を上げて飛ぶと天井を突き破った。
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