アーシアβ、終わりの時間

1/8
前へ
/8ページ
次へ
1  最後の講義は味気ないものだった。  今日まで見飽きるくらい立ち続けたセミナールーム3312のポディアムで、今夕もやはり私はひとり、マイクごしに声を張る。階段状にポディアムを囲む半円形の座席列にまばらに座り、無表情にノートをとるのは今期実習生、二十六名の生徒たちだ。  何か質問はあるかね? という私の最後の問いかけにも、声は返ってこなかった。これはいつものことだ。およそこのミネアチュリオ養成アカデミアの生徒たちには、私が本来的に期待する学究的な好奇心がいささか不足している。名目上は基本人権が付与される有感人間のカテゴリには含まれているものの、彼らはあくまで、鉱床惑星での労働人口用に急速育成される二級ヒューマンであり―― 労働活動上の不安定要因となる感情機構の発育を阻害された限定ヒューマン系統だ。業務上必要な技能の習得には真面目に取り組むが、それ以外の余分な好奇心や学問への情熱などは、期待するべくもない。  が、私の脳内で毎度のように繰り返される溜息にも似たその愚痴も、幸か不幸か、今夜が最後だ。 「では、惑星鉱床史学の今期の授業は、これにて終了となる」  立体スライドを交えた90分間の講義のあと、通常モードの室内光量に回帰したポディアムの上で、私は事務的に告げた。特に生徒らと視線を合わすこともない。 「ならびに、本アカデミアでの諸君らの学務も、これをもって終了だ。閉校宣言書は、すでにフローファイルで各自、受け取っているな? では、私からは以上だ。明日の移動に備えて、今夜はじゅうぶん、自室で休息を取るように。以上。」  
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加