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「…しかし。とはいえ、どうするのかね? 都市の自動制御機構は―― それほど長く、持続するとは思えない」
白い水体の結晶であふれる呼気をその場に吐き出して、私も、遠くに向けて言葉をつむいだ。彼女とならんで、展望デッキの手すりに両肘をかけて。
「わかりません。あまり深くは、考えていませんでした。先生こそ、どうするのですか? なぜここに、残ろうなどと思ったのですか?」
はじめて私にかすかな好奇心を抱いたように。彼女が、ちらりと視線を向けた。
「…私はもう歳だ。もう十分、生きた。これ以上、長く生きたいという願望もない」
眼下の都市に動きが見えた。
指令ターミナルの高層建築の中層を起点に展開しはじめた、熱噴射の煙と大気の揺らぎが、遠く離れたこの位置からも確認できる。最終シャトルの出発時刻だ。
大気の揺らぎは最初は赤い炎となって、それから白の純粋なる熱源のみの輝きとなって、うしろに多量の線状の白煙をまとい―― ゆっくり斜めに上昇してゆく。上昇していく。見ているうちにも、幾何級数的に速度を増して。そしてまもなく―― その白煙の軌跡は、上空を覆う色のない雲層に溶け込んで、もうそれ以上は、私の目では追えなくなくなった。
「…行ったな。」「…はい。」
二人の会話はそれで終わりだ。
あとはただ―― 言葉はなしに。凍える大気の中を今もまだ漂っていく長い白煙の軌跡の名残(なごり)を。その下に広がる無機質な鉱山プラント都市の都市光を。私と彼女は、不動で見ていた。
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