12 ウィルス共棲

二

　△△国国家主席はきつい口調で党主席政策書記長に指示した。
「新たにウィルスを早く完成させろ！
　ウィルス感染対象はコーカソイドだけでいい！
　ウィルス感染が収束していない欧米にばらまけ！
　現在のウィルスが変異した第二波、第三波の感染だと思わせろ！
　前回のようなヘマをするな。
　前回は医師を処分したが、これからはウィルス管理に失敗した研究員を全て処刑しろ。
　理由は今までのように、ウィルス感染による死亡と発表する。
　これ以上の失敗は許さん！
　WHOの口を封じるのにどれほど苦労したか、お前も知っているだろう」
「わかりました・・・」
　主席政策書記長は国家主席にあいさつすると、そそくさと国家主席執務室を退出した。

『新型ウィルスはコーカソイドだけに感染するものではない。
　ネグロイドにもモンゴロイドにも感染するが重症化はしない。
　しかし、ウィルスはコーカソイドの遺伝子と親和性が良いため、宿主であるコーカソイドは重症化して死に至る。
　国家間の往来が禁止されている今、渡り鳥に新型ウィルスを寄生させて放つ。
　新型ウィルスは鳥から人へ感染し、世界に拡がる。
　その後は、欧米諸国の衰退に乗じ、ワクチンを持つ我が国が、ワクチン供与と経済援助により、他国への侵出し支配する・・・。
　世界の覇権は我が国家のものに、そして我が党のものになる・・・』
　国家主席は戦略構想を拡げ、グラスに手を伸ばした。
　グラスには主席政策書記長が持参した年代物の老酒が満たされている。
　グラスを持つと国家主席は老酒を飲んだ。
『うまい酒だ。主席政策書記長がこうして何本も手土産を持参するとは珍しい。
　皆にも飲ませよう・・・』
　そう思いながら、国家主席は木箱に入った老酒のボトル十二本を眺めながら二杯目を飲んだ。

　三日後。
　国家主席とその一族や国家主席と親しい党幹部たちもウィルス感染で亡くなった。
　しかし、主席政策書記長はウィルスが感染しても発症しなかった。

　主席政策書記長はコーカソイドだけに感染するウィルスの開発を命じられていたが、彼は、党幹部がウィルスに感染しないためにといって党幹部の遺伝子情報を入手し、党幹部だけが感染する新型ウィルスを開発していた。
　主席政策書記長は民主化運動の黒幕だった。

国家主席とその一族や国家主席と親しい党幹部たちだけを壊滅したウィルスは、目的を果たすと同時に死滅するよう設計されていた。
　しかし、目的を果たしたウィルスは死滅せずに変異して感染力が高まり、一般人に感染して、感染は世界的に拡大した。

　その後。
　ウィルスが発生した△△国ではいち早く新型ウィルスの感染が沈静化し、撲滅に成功したように報道された。
　その一方、あらゆる国家にウィルス感染が拡まり、各国経済はおろか国民は存続の危機に瀕した。
　マスコミも各国政府も、各国がウィルスに侵されていることを報道しながら、ウィルス発生国の△△国についての報道を避けた。
　△△国の世界的な経済侵出と他国侵略が激しく、マスコミも各国政府も経済圧力をかけられるのを避けたためだった。