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窓の外が薄暗くなり、フミは照明のスイッチを押して外へ出た。
広場の賑わいが音楽と共に伝わってくる。
少しいつもと違う商店街の雰囲気を楽しみながらフミは『アサール』にチラリと目をやった。
街コンに駆り出されている間は、店の方には助っ人を頼んであるらしい。
ちょうどその時、店の扉が開き、誰かが表に出てきた。
スラッとした目が覚めるほどの美人だ。
胸元を開けた白いシャツに黒いギャルソンエプロン、栗色の長い髪は緩く纏められている。
フミは唖然と見惚れた。
美女はフミに気付くと、にっこり笑った。
「今晩は」
「こっ、今晩は!」
「あの、ちょっと助けてもらえます?このオーナメントの電源がわからなくって」
フミは駆け寄って、室外コンセントに取り付けられたトランスの側のスイッチを入れた。
アンティークの椅子の上に置かれたジャックオランタンに灯りが灯る。
「ありがとう、助かった」
「いえ」
「ケントったら、本当に言葉足らずで困っちゃう」
ケントとは八反の名前だ。
下の名前で呼ぶくらい親しい仲なのだとわかる。
「私に店を押し付けて、今頃女の子にちやほやされてるかと思うと腹が立つ」
「八反さんは商店街の広告塔なので。大丈夫ですよ、今回本人はサクラのつもりだそうです」
「まあ、そうじゃなきゃ私が許さないわ」
美女は前髪をかきあげた。
頻繁に出入りしているという彼女の一人なのだろうか。
フミは顔を伏せ、胸の痛みに耐えた。
こんなの比べるまでもない。
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