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八反はドラキュラのマントを脱いで腕に掛けている。細身の身体に身に付けたベストとスラックスが恐ろしいほど似合っている。
「八反さん、打ち上げは参加されないんですか?」
フミは看板を抱えながら訊ねた。
「うん、店の片付けもあるしね、遠慮させてもらった」
「そうですか、お疲れ様です、じゃ……」
店に引っ込もうとしたところを、八反がついてくる。
「フミちゃん、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど」
「はあ、何でしょうか……もう帰るつもりなんですが」
フミは背中を向けたまま答えた。
「かぼちゃプリンを使ったデザートを考えていて、試食して意見を訊かせて欲しい」
「えっと……」
「店で待ってるから」
八反は言い残し、扉を閉めて去っていく。
フミは途方に暮れた。
そして、額に手を当てて考え込む。
店にはあの美女がいる筈だ。
明日は『アサール』も定休日だから、そのままお泊まり……が恋人同士の自然な流れのような気がする。
そこにフミが招かれる意図は?
……純粋に試食を頼んでいるだけか。
そうだよね。
地味な見習いパティシエに、八反が拘る理由がない。
あるとすれば、フミの作るプリンぐらい。
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