本編

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十畳ほどのリビングの中ほどにちょこんと置かれた卓袱台。 八反は、そこにフミを誘導し、座布団を差し出した。 フミは受け取り、改めて部屋を見回した。 「レトロで可愛い部屋ですね」 「じいちゃんが使ってたものを結構残したんだ」 「甘味屋さん……何度か友達と入りました。あんみつが優しい味で好きでした」 「俺も。じいちゃんの作るトコロテンとあんみつが凄く好きでさ。あの空間と味は、俺の原点だなって思う」 八反はフミの作ったかぼちゃプリンを卓袱台に置いて、スプーンを手渡す。 「フミちゃんのプリンも好き。口当たりが絶妙で舌の上で蕩ける感じと優しい甘さ」 八反はスプーンで掬って口に入れた。 フミはそれをじっと見守る。 「うん、旨い。……めっちゃ好き」 「良かったです」 フミはカップを手に持った。 「びっくりするほど滑らかだね」 「かぼちゃの果肉感を残そうか迷ったんですが、今回はクリームプリン風にしたくて、徹底的に裏ごししました」 「あー、やっぱりこれ店で使いたいな。フミちゃん、また作ってくれない?試してみたい」 「良いですよ」 瞬く間に平らげた八反は、カップを卓袱台に置く。 後ろ手を付いて少し拗ねたように言う。 「……フミちゃん、それ食べたら帰るとか言わないでね、そんなことになったら、俺、立ち直れない」 「……この部屋、結構通りから丸見えなんですよね。八反さんが女の人と抱き合ってるの見ました」 八反は卓袱台に突っ伏した。
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