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22 ドラゴンの卵
「クピ。この卵、モアの卵か?」
バスコはクピが持ってきた、リビングルームのテーブルにある五個の卵の一個を示した。モアは体長四メートル、体重が三百キロの巨大な鳥だ。翼はあるが、飛べない。家畜として飼育している。
「そうだよ。モアの家にあったよ。ひび割れがあったから、急いで持ってきたんだよ。 他のモアのとくらべるとおっきいね。モアのじゃないの?」
クピは卵が今にも割れると思っている。そうなると、大変だ。
「ちがうみたいだぞ。モアの卵は灰白色だ。ヒビはない。
こいつは色がちがうし、ヒビが入っているように見えるのは、模様だぞ」
バスコは卵の表面を何度も撫でてそう判断した。
「なんの卵なの?」とクピ。
「わからない・・・」
バスコはクピの頭ほどある五個の卵をスプーンとコンコン叩いた。ひび割れのような模様がある卵を叩くと、それまでの四個の卵と音がちがう。低い音だ。しかも中がしっかり詰っているような音だが、部分的に低い音がする。空洞があるみたいだ。
「卵の中の音を聞いてみようか・・・」
「そんなことできるの?」
「聴診器をあてるか、集音マイクで音を集めるかすればいい」
「マイク、持ってくるね。
ねえー、マリー。バスコが卵の声を聞くんだって!」
クピはダイニングキッチンのマリーに声をかけた。
「あら?オムレツ、作ろうと思ったのに、卵、使えないのね?」
マリーの問いにバスコが答えた。
「白いのは、いつもの卵だ、使っていいよ。
だが、こいつは孵化するみたいだ。中の音を聞いてみるよ。
クピ。卵を見ててくれ。集音マイクを持ってくる」
そういってバスコは、自身とクピとキッチンのマリーの頭部にスカウターをセットした。そして、二階から一階へ下りて地階の倉庫に下りた。
地階の倉庫で、バスコは機材棚を見た。何か変だと思って倉庫内をじっくり見た。やはり何かが変だ。
「クピ!マリー!こっちに来てくれ!
あの卵も持ってきてくれ!」
「ちょっと待って!もうちょっとでオムレツをセットできるわ」
マリーはモアの卵を割って深皿にタロイモや野菜、調味料を入れて自動調理器にセットし、クピともに地階に下りた。
「この棚、何が変ってると思う?今までと、どこかちがうだろう?」
バスコは倉庫の棚を示した。
「集音マイクの位置が変ってるわ。大きいマイクの隣に小さいのがあったのに、今は二つのマイクの間に、見たこともない箱がある。あれは何?」
マリーは、持ってきた卵をテーブルに置いて、棚の大小の集音マイクの間にある、木製の箱を示した。クピの頭ほどの大きさだ。
「開けてみるか?」とバスコ。
「中を見れないの?」とクピ。
「見れるさ。クピが4D映像探査すればいい」
「あっ?そっかあ・・・。わすれてたよ。あたしは天使。不可能はないよ・・・。箱を消して中身を映すよ・・・」
クピが手を振ると棚の箱が消えた。代りに、古いカメラが現れた。
「なんなのこれ?あっ?ああっ!卵の中も、こうやれば見れるんだね!」
「そういうことだ。俺も忘れてた・・・。
カメラはわかった。なんのためのカメラだろう・・・」
「ねえ、バスコ。卵の中も見るの?」
「ああ、見てくれ・・・」
バスコはテーブルの上にある、マリーが持ってきたひび割れ模様の卵を見た。
クピは卵の前で手を振った。卵の中は黄身と白身だった。
「どういうことだ?スプーンの打診とちがうぞ?
卵の音を拾って見よう・・・」
バスコは大きい集音マイクを卵に向けてセットし、スイッチを入れた。
ボコ、ボコと規則的な音がする・・・。
「これって何?」とマリー。
「鼓動だね。あたしにはないよ・・・」とクピ。
「なんの鼓動なの?」とマリー。
「ここだろう・・・」
バスコがマリーの背後にまわって胸を触った。
「もう・・・、オッパイじゃなく、心臓でしょう」
そういうがマリーは身体の向きを変えて嬉しそうにバスコを抱きしめた。
「卵の中で孵化してるのに、どうして雛の姿が見えないんだ?」とバスコ。
「雛が姿を見られないようにしてるんだよ」とクピ。
「なぜなの?」
マリーはふしぎに思った。
「きっと、姿を見せたくないんだよ」とクピ。
「どんな姿だ?」とバスコ。
「モアではないのよ。きっと」
「モアでないなら、こんな卵を、誰が産むんだ?」とバスコ。
「わかんないよ・・・」とクピ。
「クク・・、クク・・・」
卵にヒビが入った。殻が剥がれて頭が現れた。嘴はない。目の大きな頭が現れた。そして殻が剥がれて翼が現れた。翼には鉤爪がある。
「かわいいね。トカゲかな?それともヘビかな?」
「クピ!鉤爪の翼だ。龍だ!ドラゴンだ!絶滅したと思ってたが、実在したんだ!」
バスコが興奮してる。
マリーはバスコを抱きしめたまま卵から現れた生き物を見ている。
「ねえ、マリー。ククはオムレツ食べるかなあ?」とクピ。
「名前をククにしたんか?」
「そうだよ。クク、オムレツ食べる?」
「たべさせてみようね。クピ」
「よし。リビングにもどるぞ。ククをつれてこい!」
「はあい。おいで、クク。オムレツ食べよ。この箱も、持ってくね」
クピがカメラの箱を持ってククに手を差しだした。ククが手に乗った。
この箱はいつからここにあったんだろう・・・。
もしかして、祖父ちゃんが送ってよこしたのか・・・。
暖炉はホワイトホールのゲートだ。ここと祖父ちゃんの家をつないでる・・・。
ここ、ドラゴ渓谷のコンラッドがコンラッドシティになる前、コンラッドのテーブルマウンテンにはたくさんの洞窟があった。そのいくつかは他の時空間へ移動できる通路、ホワイトホールだった。
バスコの先祖は、コンラッドのテーブルマウンテンの洞窟から、ネイティブ居留区があるドラゴ渓谷上流平野部のテーブルマウンテンの洞窟に移動できるのを知って、双方の洞窟に岩窟住居を作った。それがバスコの岩窟住居と祖父の岩窟住居だ。洞窟の入口は暖炉が作られ、暖炉の前に立って起動スイッチの石を押すと、暖炉前のプレートがホワイトホールを通って双方のゲートへ移動する。
祖父ちゃんが地下の暖炉を使って、カメラを棚においたのだろうか。あとで聞いてみよう・・・。
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