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28 時空間転移意識
亮は叔父に勧められて見合いして婚約した。婚約前から、亮は婚約者と顔見知りだった。
ところが、婚約者が亮の顔見知り全てと関係していた。叔父が勧めた見合いだったため、律儀な亮は婚約者が傷つくと思って、理由を説明しないまま叔父に婚約解消を頼んだ。
理由を話さない亮を、叔父は俺の顔を潰したと何度も殴った。
その後、亮は幼なじみと結婚し、叔父は人伝えに亮の最初の約者の素行を知ったが、自分の落ち度を亮に詫びず、亮と叔父の関係は険悪なままだった。
その影響で幼なじみの妻とも険悪な関係になり、亮は、大学時代から好意を抱いていた白木由美子と暮らしたいとを願った。
「だから、現状のようになるのを望んだ・・・」
亮はうつむいた。まだ何か隠している。
「で、幼馴染の奥さんはどうした?」
省吾は亮の頭を見たまま返答を待った。亮が顔を上げた。
「家がそんなだから離婚寸前だった」
「で、どうした?」
「開発部で特殊な製品を開発してた。人の思考や感情を読みとる装置だ。携帯に内蔵して思考と記憶を読みとり、新しい通信方法、電磁波による通信より早い確実な通信方法で送信する・・・。盗聴器だよ。政府が国民を監視するのが目的だ。理論は単純、実際は複雑だ。簡単にアイデアは浮かばない・・・。
そんな事より、倫理に反する開発に腹が立った・・・。
三十二の夏、土曜の深夜、実験装置のメンテナンス中に、装置に設置された階段から足を滑らせて、頭からコンクリートの床に落下した・・・。
白木由美子に起こされて目が覚めた。二階の俺の部屋で布団の上にいた。日曜で由美子が家に来ていた。白木由美子と婚約していた。二十三歳だった・・・。
前の妻は、名前も実家も記憶してない・・・」
「この時空間の記憶は連続してるのか?転移の記憶はあるのか?」
「ここでの記憶は連続してる。転移の記憶はないが別な記憶が現れる。記憶の母と姉は、今の母や姉とは違う。転移したとしか考えられない・・・。それに監視されてる気がしてならない」
「誰に?」
「由美子だ。彼女の仕事は開発管理だ。俺の秘書的立場だ。上武デパートで会った時に感じなかったか?
田村が、以前が以前だから今度は失敗は許されないな、といった時、由美子が俺の腕を取って俺を田村から遠ざけた。田村は理恵さんに腕を取られてた・・・」
亮は、省吾が理恵に監視されている。といいたいらしかった。
「そうだったな。俺も転移現象を調べてみるよ。今日これで帰るよ」
省吾を監視する者がいるとすれば、幸恵と母だ。理恵ではない。
「わかった。俺も調べて連絡するよ。
高田をどう思う?」
亮が目を輝かせている。省吾はソファーから立ちあがり、
「高田も床に落ちて目覚めてる。高田が時空間転移意識とすれば、俺たちも時空間転移意識だ」
といって廊下へでた。以前の応接間は玄関横の和室だった。ここは玄関から居間の横の廊下を進んだ奥まった部屋で、記憶にある亮の家では裏庭に位置する。
「家がちがうだろう?」
省吾の違和感を感じたらしく、玄関へ歩きながら亮は応接間を目で示した。
「ああ、そうだな」
亮の意識も転移したのはまちがいない・・・。
省吾は、研究室のソファーベッドから落ちた時に夢を見たと思ったが、あれは夢ではなく記憶だと確信して尋ねた。
「近くに車が通れる吊り橋はないか?」
「S渓谷鉄道のM駅からの旧国道に吊り橋がある。転移現象に関係するのか?」
「わからない。気になるんだ。帰る道中だから行ってみるよ」
玄関をでて、省吾は車に乗った。
「奧さんによろしくな」
「ああ、田村も気をつけてな」
「じゃあ、また連絡するよ」
省吾は車を発進させた。
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