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もどる、もどる、もどる。
去年私の家であった、ちょっと不気味な話をしようと思う。本格的な怪談が好きな人は物足りないかもしれないけれど、個人的には結構怖かったから付き合ってほしい。
去年、私が大学生になるのと同時に、父が仕事を定年退職することになった。私の両親はどっちも結構いい歳で、私は不妊治療の末にやっと生まれた一人娘ということで大事に大事に育てて貰ったという自覚がある。
そんな私も両親に関しては結構心配性で、特に気にしていたのが定年後の父のことだった。
働いていた頃、それはもバリバリと会社のために尽くしてきた父である。仕事をやめた後やることもなくなって、毎日ぼんやりと過ごすようになってしまうんじゃないかと普段だったのだ。
ましてや、父はそこまで社交的な人でもなくて、地域に友達がたくさんいるわけでもない。スマホとかパソコンで雑談するようなネット友達がいるようなタイプでもない。
毎日ぼんやり家で何もせず過ごすようになると、どうしてもボケも進行しやすくなってしまうイメージがある。私はいつまでも元気な父であってほしかったし、何か趣味を見つけてくれるといいのだけれどと思っていたものだ。
しかし。
「じゃあ、行ってくるよー」
「いつものとこ?行ってらっしゃーい」
それは、杞憂に終わった。
父は早々にお気に入りの趣味を見つけたのである。それは、図書館に通うことだった。家から十五分ほど歩いたところに地域の図書館があって、彼は毎日散歩がてらそこに通うようになったのである。バリバリ仕事をしていた時はじっくり本を読む機会もなかった、今はいろいろな本が読めて楽しい、と言いながら。
読書っていうのは、誰でもできる良い趣味だと思う。
勉強になるからとかそういうのではなくて、年配者とか、体が弱い人でも問題なくできるからという意味。それこそ今はまだ足腰が元気な父も、いずれ弱ってきて体を動かしづらくなるかもしれない。でも、本を読むのは座っていてもできること。元気なうちは、図書館に歩いていくのもいい運動になるだろう。
私の学校の講義は、午前中には入っていないことが多い。
だから父が図書館に出かけるのを見送ってから、私も適当なタイミングで大学に行くのが基本パターンだった。父はそのまま散歩に行って、近くのカフェでお昼ご飯を食べて、図書館まったり過ごして帰ってくる。いつも元気に散歩に行く彼を見て、私も母も心からほっとしていたものである。
さて、ここまでがこの話の前提。
おかしなことが起きたのは、彼が図書館通いするようになってから暫くの後である。
「あれ?」
ある日の夜。私は、リビングの食卓の上で一冊の本を見つけたのだった。
あちこちカビだらけで、ボロボロになった文庫本を。
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