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三度、ユズリハの部屋にやってきた。
そういえばピアボックスを返してなかったので棚に戻す。
「水晶洞窟……」
「俺の一番の自信作見てもらおうと思って」
「僕もそれが一番良いと思ってた」
ユズリハの顔が少し和らいだと思ったらまた固くなり目を伏せた。
「ごめんなさい……全然あんなこと言いたかったんじゃなくって、本当は……本当は只の我儘なんだ……」
「我儘?」
ユズリハに似合わない言葉だ。生意気な奴だけど我儘を言ったりはしない。小さい頃からもっと甘えてもいいのに、と思うくらいなんでも一人で解決しようとする奴だった。
「いつかエンジュが旅に出たまま帰ってこなくなるんじゃないかと思って……だからちゃんと帰ってきてくれるように、ピアボックスを託してたんだ」
「そうだったのか……でもそれならそう言ってくれれば……」
「帰ってきてくれなきゃ嫌だって? そんなこと僕に言われても困るでしょ?」
「いや、嬉しいよ。帰りを待っててくれる人がいるっていうのはさ」
本当に嬉しい。正直自分はいてもいなくても変わらない人間だと思ってるから、そんな風に思ってくれる人がいるなんて意外だった。
「けど、それではっきりエンジュを縛りつけてしまうのも嫌だ。エンジュは……どこまでも好きなところに行けるエンジュが僕の憧れだから。」
「憧れって、またまた……俺なんかただ好きなように旅してるだけだし……。色んな魔法道具作ってるユズリハとかのほうがすごいだろ」
「エンジュは他の人と比べて自分は大したことないって言うけど、関係ないよ。ずっと思ってた昔からの夢を叶えて。大変なこともあるだろうに、いつも楽しそうにしていて。帰って来てもすぐ次の旅のこと考えてる。エンジュは天性の旅人なんだ。見知らぬ地へ恐れずに楽しんで進んでいけるのも才能なんだよ。いつかエンジュは冒険家として名を馳せると思ってる」
「そ、そう……?」
まっすぐな目で真面目に言われてなんだかどぎまぎしてしまう。でもなんだか、初心を忘れてたような気がする。小さい頃は立派な冒険家になると意気込んでたのに、色んな凄い人たちを見るうち、それは自分にはできないから駄目な奴だと思うようになってた。冒険家の才能はあると思っていいのかな。……ちょっと泣きそう。
「本当は僕もついて行きたいと思ってた。でもそれは僕には難しいから……。ピアボックスにエンジュが写ってるのを見たとき、実は嬉しかったんだ。旅先での君の様子が見られたから。だから悪いと思いながらも頼み続けてしまって……」
「……なあ、ピアボックスを写す前の状態で売り出すのはどう? 旅先の様子を友達とかに見せられたり自分で見たりできるのっていいもんだしさ、皆それぞれ思い出として残しておきたい瞬間ってあると思うんだ」
「それいい……! ……ねえ、これからも旅先での様子を見せてもらってもいい? ちゃんと今まで通りの報酬を出すから……」
「そんなの金なんか出さなくたっていいよ。友達なんだからさ」
「……僕のこと、友達だと思ってくれてるんだ」
「当たり前だろ」
「ありがとう……。……じゃあ、もうひとつ我儘言ってもいい?」
「お! いいぞ~! 言ってみろ!」
嬉しくてわしゃわしゃと頭を撫でてやると、文句を言いたげな顔をされてしまった。
「今までと同じ額を出すから、エンジュが旅先で気に入ったものをお土産にしてくれないかな。おいしかった食べ物とか、楽しい音楽を奏でる楽器とか……興味深い伝説とか形のないものでも良い。君が旅先で素敵だと思ったものを僕と分かち合ってくれたら、すごく嬉しい……」
「いいに決まってんだろ~!」
抱きしめて頭を撫でくり回すと「そういうのやめて!」と怒られた。
普段生意気な癖に可愛いこと言うからだろ。
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