石を集める

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 高校球児たちを乗せた船は、那覇港に着いた。  しかし、検疫所で告げられた事実は、高校球児たちを落胆させるものであった。 「本土の土はすべて捨ててください。沖縄県への持ち込みはできません!」 「どうしてですか! この土は甲子園に出場した思い出の土です! 青春の思い出です! 土を持ち帰って何が悪いんですか!」 「申し訳ありません。外国の土は沖縄には持ち込めないことになっております」 「甲子園は兵庫県にあります。外国ではありません!」 「……あのですね……あなたたち、沖縄県民なら分かっているでしょう。沖縄は現在、アメリカの統治下なのです。つまり、沖縄はアメリカなのです。兵庫県は日本です。沖縄から見たら、兵庫県は外国なのです。外国である兵庫県の土を沖縄に持ち込むことは検疫法違反となります。即刻、集めた土は廃棄してください」 「そんな……」  甲子園大会に出場するためには、確かに首里高校の生徒達は「渡航証明書」を発行してもらう必要があった。いわゆる、「パスポート」のようなものである。  沖縄県は米軍の統治下にあった。  よって、法律もアメリカの法律が適用されていた。  車は右側通行である。  追い越し禁止の標識も、日本本土のものとは違い、左から追い越す矢印にバッテンが付けられたものになっている。  飲み物の容量も、本土では1リットル単位で売られているが、沖縄ではアメリカ式に「ガロン」が使われている。4分の1ガロンである、946mLが単位となっている。  沖縄県代表として甲子園に出たにも関わらず、自分たちは日本人として扱われていない……  甲子園の土は外国の土だから持ち込めない……  そんな理不尽が許されるのだろうか。  しかし、法、そしてアメリカには逆らうことはできなかった。  首里高校の生徒たちが甲子園球場で集めた土は、すべて没収され、那覇港沖の海へと投棄されたのであった……
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