お客さんの種類

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お客さんの種類

「朔、コーヒーと紅茶どっちにする?」  義人さんに訊かれて、僕は記憶の中に沈んでいた思考を引き上げた。なかなか返事をしない僕に、義人さんが、ん? と首を傾げる。 「紅茶にします」  そう答えると、了解と言って義人さんは準備をはじめた。ケトルに水を入れて火にかけ、ティーカップやティーポットを用意する。それからカウンター後ろの吊り棚の方に身体を向けた。  吊り棚には手のひらサイズの瓶が所狭しと置いてあって、上段はパステルカラーの玉、下段は黒色の玉が入っている。全部、夢を玉にしたものだ。  義人さんは吊り棚の下、作業台になっているスペースにおいてある缶の中からアールグレイの缶を選んで取り上げた。  義人さんは『お客さん』にしかちゃんとしたお茶を出さない。彼の中では、夢を売り買いしに来た人だけが『お客さん』で、カフェだと思って入ってきた人は、間違って入ってきちゃった人で『お客さん』ではないらしい。  僕に言わせれば看板に『カフェ夢屋』なんて書いてあるのだからカフェだと思って入ってくる人がいて当然だと思う。嫌なら『夢売買専門店』とでも書いておけばいいのに。そう、義人さんに言ったこともある。けれど。 『そんな店怪しすぎるだろ。ここの商店街から追い出されるわ。チラシ? ……ああ。あれはスピリチュアル系のちょっと怪しいイベントとかでたまに配ってるやつ。それが何で朔の部屋のポストに入ってたのはかわからんけど……まあ、普通は冗談だと思うだろ。あんなのに釣られるのは朔くらいだ。───それに、商売してる俺が言うのもなんだけど、本来、夢なんか売り買いしていいようなモンじゃないんだ。特に買う方。人生おかしくなる』  だから、どうしても必要な人にだけ少量売るのだという。生活する分には困らないし、閑古鳥が鳴いてるくらいで丁度いいんだよ。と義人さんは笑っていた。  実際、僕をバイトとして雇うくらいの余裕はあるらしい。
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