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「――それで、大事なお話って?」
久しぶりにママ友を集めてファミレスに行った。今日は大翔くんママと凛空くんママ。そして、大翔くんと凛空くんも一緒に居る。
『警察も関わるような大事な話になります。大翔くんと凛空くんも呼んで下さい』
警察と書かれたメッセージを送るだけで緊張感は簡単に高まる。大翔くんママも凛空くんママも心当たりがないのだろう、不安そうに私の様子を窺っていた。それに比べて大翔くんと凛空くんには余裕が見えた。
――「大翔くんと、凛空くんってこと?」
「そうですよ。まぁ、紺野くんは賢いから、イジメなんて認められないだろうけど」
先日田畑くんと話したことを思い出していた。私がイジメの犯人のことを聞くと、鼻で笑うようにして田畑くんは言った。あれ、だって。小学生の頃は、大翔くんと一緒によく遊んでいたし、凛空くんは絵に描いたような真面目な優等生で、人望があって、時期生徒会長だと言われているって……私は最初、田畑くんの言うことが信じられなかった。でも、今、警察が関わるようなことだと説明したというのに、余裕そうにジュースを頼んで飲んでいる二人を見ると、途端に笑顔で人にイジメをするような子供に見えて、怖ろしく思えたのだった。
「私は信じたくないって思ってるんだけど……この前、私のSNSのアカウントに誹謗中傷が届いたの。ううん、本当はもっと過激なことが届いてた。それで、その犯人のことは突き止めたんだけど……楓樹と同じ学校の子だった。名前は伏せるけど、その子が言うには、楓樹をイジメている人たちがいて、その人たちに追い詰められて、私のアカウントを攻撃したって」
楓樹は学校を休んだし、私の家には警察が来ていた。きっと噂で詳細までは聞かなくとも何かあったことは勘付いていたのだろう、大翔くんママと凛空くんママは何か思い当たる節があるような表情をして、お互い顔を見合わせていた。大翔くんと凛空くんの態度は変わらない。緊張感もなく、何だか退屈そうに見えるくらいだった。
「その……それで?」
「それで、その唆した、楓樹をイジメている犯人が、大翔くんと凛空くんだって」
「は、はぁ⁉凛空がそんなことするわけ……ねぇ⁉」
想定はしていた。案の定、凛空くんママは取り乱した。大翔くんママは信じられないといった顔で私を見ている。それはそうだ。自分の息子がイジメに加担したなんて、すんなり信じる親はいないだろう。
「証拠はあるんですか?」
冷めた表情で凛空くんが私に言う。まるで私が取り調べを受けているように感じるくらい、冷静沈着で、大人びた口ぶりだった。
「これ……」
私がスマホの画面を見せると、少しだけ凛空くんの眉が動いた。実は、田畑くんから証拠の動画を貰っていたのだ。田畑くんが言うには、何かあった時の為に証拠を集めていたらしい。きっと自分がイジメのターゲットになった時の為に準備していたのだろう。田畑くんはSNSで拡散すれば、騒ぎになって、イジメどころじゃなくなると思ったと言っていた。
『ふーちゃあん(ハート)ほら笑ってぇ?』
私がその場にいる全員に聞こえるように再生した動画には、複数の生徒に囲まれ、絡まれている楓樹の姿があった。まるで幼い頃の楓樹に対する私のように、楓樹に話しかける生徒たち。楓樹の顔をくしゃくしゃと撫でまわし、ゲラゲラと笑っている。
凛空くんは動画を見つつも、不敵な笑みを浮かべていた。大翔くんはそんな凛空くんの様子だけが気になるようで、ずっとソワソワとしていた。二人のママたちは、まだ理解が追い付いていないようで、困惑し続けていた。
「これのどこがイジメなんですか?」
「楓樹、嫌がってるじゃない!」
「そうですか?長谷川君から嫌だなんて聞いたことないですよ。僕たちは“じゃれてるだけ”です」
「こんな、複数人で取り囲んで顔、掴んでおいて……」
『ふーちゃん、たかいところダメぇ?』
『ふーちゃん怖かったぁ?ごめんねぇ?』
その後もずっと、楓樹が小さな子供扱いをされ、揶揄われている動画が続いていた。突然体を持ち上げられたり、頭を撫でるように髪型をグシャグシャにされたり、楓樹は無気力なのか、されるがままだった。
「それがイジメだって言うなら、長谷川くんのお母さんがしてきたことは虐待ですよね?」
「はぁ⁉」
「ちょ、ちょっと凛空……」
普段の態度とは違うのだろうか、凛空くんのママはどうしていいか分からないようで戸惑っていた。大翔くんのママは混乱しているのかずっとオロオロと目線が泳いでいる。
「僕らはあなたが長谷川くんにしてきたように、可愛がってるだけですよ。あなたが昔撮影した動画をマネしてね。だから、僕らがしたことを非難するなら、あなたがしてきたことも非難されるべきではないですか?」
以前に凛空くんママが、凛空くんの事を理屈っぽくていつかモラハラしそうと危惧していたことを思い出していた。まさに今私は、凛空くんによって、精神的に追い詰められていくことが簡単に想像できた。
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