灯台下クラシ

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「――ごめんねぇ、遅くなった」 「大丈夫よ~」  10月。楓樹と同じ学校に通う同級生のママ達とお茶をしていた。来年は受験生だから、話すことは受験に関することが増えていた。 「花恋(かれん)ちゃん模試で全国上位だったらしいよ」 「じゃあ公立の第一高校かしらねぇ」 「違うんだって。私立の附属高を目指すみたいよ」 「へぇ~」  小学校の時から一緒の莉子(りこ)ちゃんママと、大翔(ひろと)くんママ、中学で楓樹が同じクラスになったことがきっかけで仲良くなった凛空(りく)くんママ。この三人とお茶をすることが多かった。莉子ちゃんママは噂話が大好きで、莉子ちゃんともよくおしゃべりするらしく、他の子の情報が豊富だった。凛空くんは優等生で反抗期も無く、凛空くんママとは仲が良いらしい。学校でのことを話さない男子生徒が多いなかで、凛空くんは私たちにとって貴重な男子生徒達の情報源になっていた。大翔くんママはまだ20代で若々しく、野球部で体の大きな大翔くんと並ぶと年の近い姉弟に見えるくらいだった。大翔くんママ以外の私たちは30代だから、大翔くんママとはジェネレーションギャップを感じることもあるけれど、さっぱりとした思い切りの良い性格は私たちだけなく、たくさんのママたちから好かれていた。 「楓樹くんとはまだ?」 「うん……」 「そうですか……ウチも最近話してないんですよ。汚いユニフォームを散々洗わせておいて。もうっ!」  大翔くんママも私と同じように息子と話す機会が減っているようだった。でもたぶん違うのは、大翔くんは野球部で忙しいからある程度仕方がない部分があるということだろう。それに前に一度、大翔くんママのお家にお邪魔した時に大翔くんがたまたま家に居たけれど、楓樹のように私を一切無視する冷たさを大翔くんからは感じなかった。大翔くんママの言うことに「あぁもう、うっせぇなぁ」って口の悪い返事をしていたけれど、本気で嫌がっているというよりは、私が居る前で小言を言われるのが恥ずかしく思っているだけの、子供らしい可愛い反抗期のように感じたのだ。 「凛空も最近さすがに学校のことは話してくれなくなったわよ。それに塾の成績が良いなら文句ないでしょ?みたいな生意気なところが透けて見えて……あれはあれで嫌な反抗期って感じ。旦那の嫌なところが似てきて嫌になっちゃう。将来モラハラとかしないといいけれど」 「でも凛空くん人望凄いって莉子が言ってた。次の生徒会長になると思うって」 「あらそうなの?そんなこと全く話してなかったのに」 「へぇー……」  ママたちは仲良くしているけれど、大人しい楓樹とスポーツが得意で活発な大翔くん、優等生の凛空くんはたぶん学校で関わりがないようだった。三者三様の反抗期の話は興味深い。  凛空くんは賢いから内申とかも考えて生徒会長を目指しているような感じがした。小学生の頃から凛空くんを知っているけれど、小学生の頃から子供らしからぬ落ち着きがある子で、大人顔負けの資料を作って総合学習の発表を授業参観の時にしていたことを覚えている。 「大翔も部活頑張ってるのは偉いと思うんですけどねぇ。そろそろ勉強も頑張って欲しいなぁ……」 「莉子なんて部活を引退する来年の夏まで勉強は適当にするって、わざわざ宣言してきたの。来年の夏から本気出す!って、そんな簡単な世界じゃないのにね」 「でも莉子ちゃん夏の全国大会で入賞したんでしょ?推薦とか貰えるんじゃない?」 「それを頼りにしてるから勉強は適当で大丈夫だと思ってるみたい。ほんと楽観的で困るわぁ」  大翔くんも莉子ちゃんも部活に一生懸命で、凛空くんは成績が良くて……楓樹は半年ほど前に気付いたら部活を辞めていた。成績も教えてくれないから勉強が順調なのかも分からない。私が変に探っても関係が悪化するだけだと思って、正樹に楓樹の様子を見るように頼んだけれどダメだった。「男子は親に詮索されるのが一番嫌なんだよ」って。「俺は楓樹のことを信じてるから平気だけどな」って。私は心から我が子を想って心配しているのに、我が子のことを信じていない悪い母親のような言い方をされて傷ついただけだった。信じてるなんて綺麗な言葉を使って、自分に都合の良いように私に育児を押し付けているだけのくせに。 「長谷川さん?」 「え?あ、何?」 「大丈夫ですか?怖い顔してますけど……」 「あぁ大丈夫。なんか最近SNSでさ、変なのに絡まれること多くてさぁ」 「あぁ~!分かりますぅ!最近めっちゃ増えましたよね!」  正樹のことを思い出すとイライラするようになったのはいつからだろう。ママ友たちの事を信用していない訳では無いけれど、旦那の愚痴は言わないようにしていた。何とか話題を変えて正樹のことや楓樹の問題は考えないようにした。
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