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第1話 兄の帰宅
「おい! 何やってんだ!」
兄の声が耳に飛び込んできました。
え、と私はその時玄関の扉の前に立っている兄を見上げて驚き、そして喜びで心が震えました。
「何って…… この子が言うこと聞かないから、お仕置きをしているだけじゃない。何今更」
這いつくばっている私の頭に、足を乗せてぐりぐりと姉は平然と兄に言い放ちます。
重いです。
重すぎます。
姉の足首はまるで私の首と同じくらいなのです。
次の瞬間、馬鹿野郎、と兄は姉を横から突き飛ばし、私を立ち上がらせました。
……前からでは駄目だったでしょうね。
「頼む」
「おう」
私は押さえられた頭が急に解き放たれ、そして立ち上がったことからふらふら…… とよろめいたのですが。
その身体を誰かが支えてくれた様です。
「そいつを何処に連れて行くのよ! お母様! 兄さんが酷いのよ! 皆アンナを取り押さえなさい!」
何やら騒がしくなってきます。
が、私はそのまま、誰かの温かい腕と胸に支えられたまま、馬車の中へと運ばれました。
「大丈夫?」
大きく美しい車内。
私は自分がこんな床や窓掃除の埃まみれの汚れた格好で座っていてもいいのか、と躊躇しました。
ですが、そのクッションがあまりにも柔らかくて気持ちがいいので――
――眠ってしまいました。
*
目覚めた時には、ベッドの中でした。
清潔なシーツの中、高い天井、そしてふんわりとした寝間着。
ここは何処だろう、と思っていると、やがてメイドが入ってきました。
「ああやっとお目覚めになったのですね、お嬢様」
「あ、あの…… ここは」
「若様のお友達のお嬢様。お客様としておもてなし致します様、承っております」
「……あ、私はアンナ…… アンナ・リッケンです。お嬢様はこそばゆいので、名前で……」
「いえ、ちゃんとしたお客様ですからそうもいきません。ではアンナお嬢様、で宜しいでしょうか」
「あ、はい、宜しいでございます。えー、と。今、何時でしょうか」
「ああ…… ずいぶんお眠りになりましたからね」
そう言って彼女は置き時計を両手で抱えて目の前に差し出しました。
何ってことでしょう。
私は一日半も眠っていたようです。
「ずいぶんお疲れだったのでしょう? お風呂の支度もできております。それからお着替えを」
「……はい」
私はただうなづくしかできませんでした。
ああでもお風呂!
久しぶりです!
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