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たどり着いたのは小さな空き地だ。すぐ近くには裏山へ至る山道が口を開けており、その入口には白木造りの鳥居が佇んでいる。
母親たちが喋っていた噂によれば、誰かが家を建てるために土地を購入したものの、その後ちっとも建設の話は進むことがなく、そのうち引っ越してくるのも辞めてしまったから、ここはずっと空き地なのだという。
特別遊具があるわけでもなく、ベンチひとつないその空き地は当然ながら誰かしらの私有地であり、みだりに立ち入ったりしてはならないと彩も学校の先生から教わった。
ただ、それを守るかどうかはまた別の話だった。夜に出歩く背徳感に加えて、いけないことを重ねていることに、言いしれぬ高揚感を覚えた。
彩が空き地へ訪れたときには、すでに先客がいた。彩は彼女よりも早くこの空き地へやってきたことがない。いつだって、彼女はこの小さな空き地で夜風を楽しんでいるのだ。座るところもない空き地の真ん中に、彼女はいつだって立っている。
「こんばんは、さっちゃん!」
彩はトトトと小さな人影へ駆け寄った。少女――幸は手を振って彩に応える。
「こんばんは、あやちゃん」
おしとやかな落ち着いた声が彩を迎えた。彼女の声を聞くと、自然と心が落ち着いた。楽しい気分はそのままに、安堵の気持ちが胸を満たす。
彩は鞄の中から小さめのレジャーシートを取り出す。百円均一で手に入れたそれは小さい子ども向けのものではあったが、彩と幸のふたりならばぎりぎり座れる程度の大きさだった。ベンチもないこの場所で、服を汚さずに行えるお茶会のためには必須のものだ。
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