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話すことは他愛のない日々のことだ。先日読んだ本の話、テレビで見たアニメの話など、話にはあまり脈絡もなければとりとめもない。
それでも、幸は彩の話を面白そうに聞いてくれる。
変わって幸が話すことは、少し昔の「不思議な話」だった。狸や狐が人を化かす話、鼠を追いかけて山へ分け入る話、雀の姉妹とキツツキの話など、動物が出てくる物語が多かった。
お菓子を食べながらふたりでおしゃべりをして、彩がふわ、とひとつあくびをする頃、幸が優しく笑って「今日はここまで?」と尋ねる。
幸とのおしゃべりは楽しいけれど、ひとたび眠気を自覚すれば長く起きてもいられない。別に眠ることも嫌いではないのだ。
「うん、今日は帰る」
持ってきたお菓子やレジャーシートを片付ける。その間にも少しあくびをこぼす彩に、幸が小さく笑う。
「またね、あやちゃん」
別れ際、幸はいつものように片手を振って彩を見送る。彼女に彩も手を振り返した。
「うん、またね!」
そうして帰路に着く。月は少し傾きこそしているが、彩の帰り道を優しく照らしてくれていた。
電気のついていない家は、彩がこっそり抜け出したときのままだ。きちんと鍵を締め直して、彩は自分のベッドに潜り込む。夢の国へ旅立つのはすぐのことだ。
翌朝、目覚ましの音で彩は目を覚ます。眠い目をこすりながらもベッドを降りて、身支度を整える。トースターにパンを入れ、焼き上がるまでの間に顔を洗った。
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