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夜に仕事へ出た母は、いつも彩が学校に行っている間に帰ってくる。朝の支度も彩ひとりで行うのがいつもの日常だ。洗面所から戻ってテレビを付ける頃、チンと食パンが焼き上がる音がした。彩は冷蔵庫からマーマレードと牛乳を取り出す。
いただきます、とひとり合掌して、マーマレードを塗った食パンを食む。テレビはちょうど、お天気お姉さんが今日の天気を話している。夕方から雨が降る可能性があります。折り畳み傘があるといいでしょう。
折り畳み傘は、確か靴箱の隣の棚にあったはずだ。鞄の中に入れていこうと思いながら、食パンの最後の欠片を口に入れた。
テレビの左上に表示された時刻を見る。ひとつ軽いため息をついて、電源を切った。ランドセルを背負って、家を出る。
学校はいつもと変わらぬ様子で進み、昼休みのチャイムが鳴った。
連れ立って校庭へと駆け出していく者、ひとつの席に集まって楽しげに話をする者、こっそり持ち込んだトランプで遊ぼうと席を向かい合わせにする者など様々いるなかで、彩は目立たぬようにそっと席を立つ。教室を後にしながら、どこへ行こうかと考える。
図書室が開いている日なら迷うこともないのだけれど、今日はあいにくお休みの日だ。週に二度ある図書室が休みの日、彩はいつもひと気のない場所を探して歩き回りながら、昼休みの時間を潰している。
彩は今年の春に転校してきた身だった。はじめは、友達を作るべきなのだろうと思っていた。
そんな彼女に、遊ぼう、と声をかけてくれた子もいたけれど、彼女たちの話は目まぐるしく移り変わって、うまく言葉を返せなかった。
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