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みんな、なんて速さで生きているのだろう。そんなにたくさんのことを見て知って、覚えて笑っていかないと、一緒にはいられないのだろうか?
そんなことを考えているのはどうやら彩だけのようで、彩以外のクラスメイトは同じタイミングで笑いあい楽しげに話をクルクルと回していく。
誘ってくれたクラスメイトの輪の中で、彩は自分が透明になったような気がした。
それでも構わなかったけれど、どこかほんの少し、寂しい気持ちにもなった。
だから、そのうち彩は教室にいることを避けるようになった。ひとりの時間も嫌いではなかったし、自分が透明になってしまうよりはよっぽどいいと思った。
この日は、中庭の花壇をゆっくり見て回った。あまり花も咲いていない小さな花壇ではあったけれど、昼休みの時間くらいは潰すことができたので満足だ。
学校も終わり、家へ帰ればふわりと美味しそうな香りが玄関まで漂っていた。野菜をたくさん入れたスープの香りだ。自然と口元がほころぶ。
ダイニングへと向かえば、台所に立つ母の姿があった。エプロンをした母は、後ろから見ても美人だなと彩は思う。
「ただいま」
振り返った母は彩を笑顔で迎えた。おかえり、と告ぐ声も柔らかい。
「荷物置いて手洗ってね」
「はぁい」
いつもどおりのやりとりをして、彩は自分の部屋へと向かう。
できあがった夕飯を前に、母と向かい合わせで「いただきます」と合掌した。
具だくさんのスープに口をつける彩へ、母は「学校はどうだった?」と尋ねる。彩は「えぇとね」と言葉をついで、授業でならったことなどを話す。連絡がある場合もここで告げていた。
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