ロマンチックな彼氏

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ロマンチックな彼氏

 付き合い始めて数か月になる一組の大学生カップル、E男とF美がいた。  ある日、E男が言った。 「もうすぐFちゃんの鬼おこだよね。何が欲しい?」  察して、F美は苦笑いした。 「イヤだな~。Eくんもそう覚えたの?」 「分かりやすいから」  E男が悪びれずに笑う。  「鬼おこ」とは、F美の誕生日についてできる語呂合わせの、安直なものの一つ。二月五日、〇二〇五、オニオコ。  ちなみに、「Eくんも」というのは、F美自身もそう思っていることによる「も」だ。スマートフォンが、「02/05」などと表示するせいもあるのかもしれない。 「私がどかーんってなって、周りのモノやヒトに迷惑をかけるみたいじゃん」 「そうでないと助かるんだけど」 「それはEくん次第だよ。ところで、私はブランドコスメが欲しいです。あ、正確にはリンク送る」 「聞いた僕が悪いけど、サプライズも何もあったもんじゃないな」  E男が苦笑いすると、F美はいたずらっぽく笑った。 「じゃあ、サプライズは、私の誕生日のもっと良い語呂合わせが欲しいです。そう、ロマンチックなの考えてみてよ」  二月五日。 「Fちゃん、誕生日おめでとう。ごめんサプライズ感が無くて」  E男がラッピングされたプレゼントを差し出すと、それでもF美は本当にありがたい気持ちで受け取った。 「いいよいいよ。うわ~、ありがとう!」  それを見守って嬉しそうにした後、E男は切り出した。 「というわけで、語呂合わせも持ってきた」 「ロマンチックなのできたの?」 「まあ何とか」  E男は少し照れくさそうにした。 「まず、〇二〇五の最初の『〇』を『太陽』って読むんだよ」 「何かロマンチックな出だし! それで?」  君は僕の太陽だ、みたいな、とにかく詩的な予感。F美がせがむと、E男は続けた。 「僕が受験生時代から使ってる記憶術の本によれば、五〇音全てに数字を割り当てて、例えばカタカナの『イ』は普通に数字の『1』になるんだけど、カタカナの『ア』は数字の『5』と形が似てることに注目して、『5』と書いて『ア』と読める」 「『5』で『ア』ね……ふむふむ」 「結果として、〇二〇五は『太陽フレア』と読める」 「すごい! 何か天文学みたいになったじゃん!」  実際、「鬼おこ」より全然ロマンチックな語感だ。F美はこのささやかな収穫に満足しながら、ふっと尋ねた。 「ところで、太陽フレアって何だっけ」 「太陽がどかーんってなって、地球の電子機器や人間に迷惑をかけるやつ」 (了)
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