だいじょうぶ

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 親と喧嘩して、学校で泣いた。  中学三年生、ただでさえ思春期なおれにも、進路選択というものは迫りくる。外聞を気にする母親は、近所の進学校を勧めてきた。 「ここなら部活も豊富だし、いざとなったらアルバイトもできるし。少し頑張れば学力も敵うでしょう」  でもおれが行きたかったのは、電車で一時間も離れた高校。しかも勉強はまったく出来ない、荒れた高校だった。そんなところでも人が集まるのは、整った設備の工業科があるからだ。  整備士として働きたかったおれは母親に反抗した。生まれて初めての反抗だ。それが果敢なく散った。  「大丈夫?」  泣いていた所に声をかけたのは、友人の(さとし)。 「大丈夫」    おれはこの言葉が嫌いだ。 「大丈夫かよ、ほんとに……」 「……」 「おい、なんとか言えよ」 「……」 「どうしたんだよ!何があった?大丈夫か?!」  だからぶち切れた。 「大丈夫大丈夫って、大丈夫なわけねぇだろ!!そんなこともわかんねぇのかよ!!」  そのまままた泣きながら走り去る。  後ろから追いかけてくる足音は、しなかった。  おれは図書室にもぐりこんだ。ここなら人が少ない。   「あれ?ユキムラくん?」  おれの名を呼んだのは目の前の席の女子・高山瑞樹(たかやまみずき)。 「どうしたの?」  このまま泣きっ面で黙っているのも不審者だ。おれは瑞樹に事を話した。 「それは災難だね……。でも、ユキムラくんの心が大事。大丈夫だよ、きっとわかってもらえる。大丈夫」  そうだ。大事なことを言い忘れた。  おれが大丈夫って言葉を聞くだけで、イライラするってこと。 「大丈夫って、何がだよ!!」  おれは止まれなかったんだ。  その日を境に結局おれの人生は、大丈夫じゃなくなった。  安易に使うなよ。
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