<1・石が流れて木の葉が沈む。>

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 *** 「うわあああああああああああああああ!?」  悲鳴。  ケイシーはベッドから転げ落ちんばかりの勢いで飛び起きていた。 「はあ、はあ、はあ、はあ……」  全身を、びっしょりと生ぬるい汗が濡らしている。吐き気が凄い。ぐるぐる回る視界の中、そこが見慣れた自分の寮の部屋だと気づいた。慣れた水色のタオルケットが見える。茶色くて丸いベッドの足。少し薄汚れた白い壁。揺れている、青いカーテン。 「ああ……くそ……最悪だ」  くしゃり、と自分の前髪を掴んだ。その拍子に、水色の髪の毛が何本か抜けている。最近頻繁に見る、胸糞悪い夢。まだお腹がずきずき痛むような気がして、思わず腹に手を当てていた。おかしなことだ、自分は男で、そこに子宮なんかないはずだというのに。  ふらつきながらもベッドから降りて、洗面所へと向かった。この寮のいいところは、一人一部屋個室が与えられ、ベッドも洗面所もシャワーもついているということである。おかげで、多少騒いでも人様に迷惑をかけずに済む。同時に、悪夢にうなされた酷い顔を見られることもない。 ――なんなんだ、あれは。  寮生活を始めて、既に三年近くが経過している。  小学校を卒業した十二歳からここに来たから、もうこの部屋での暮らしも慣れたものだった。家族と離れるのは少し寂しかったけれど、長期休みには帰って顔も見られるし、良い仲間に恵まれたのでそこまで辛くはない。  嫌なことはただ一つ。十六歳の誕生日が近づいてきた昨今、繰り返し見るようになったこの夢である。 「……なんとなく俺に似てたか?」  洗面所で顔を洗ったところで、鏡の中の自分に問いかけた。少し長めの水色の髪に、群青色のちょっと大きすぎる瞳と群青色の肌。――女の子みたいだなんて言われるこの顔がコンプレックスなのは、自分が男であるからこそ。なのにどうして、あんなよくわからない夢を見るのだろう。  夢の中で、自分は中流階級の娘になっている。  高校が休みの日に一人で読書をしていたら、家に変な軍人っぽい男達が押し入ってきて誘拐されてしまうのだ。そして、凄まじい辱めを受けるのである。レイプではない。ある意味それよりも恐ろしいことだ。突然下着を奪われて、足を開かされて、変な液体を子宮に――。 「ぐっ」  思い出したらまた気持ち悪くなってきた。コップに水を注ぎ、がらがらがら、とうがいをする。夢の中のことだというのに、本当にお腹が痛いような気がしてしまう。
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