<1・石が流れて木の葉が沈む。>

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 だが、実際それほどの地獄だったのは確かだ。  女性の体について詳しくはないが、子宮口を強引に開かされて注射器をねじ込まれるというのは、きっとそれだけ痛くて恐ろしいことなのだろう。下手をしたら、一生子供が産めない体になってしまうかもしれない。一体連中は“自分”に何をしようとしていたのか。ろくでもない実験だったのは間違いないが。 ――やめよう、忘れた方がいい、あんなもの。……最近激しい戦いが続いて疲れてるんだ、きっと。  あまり時間はない。いつもより早く目覚めたとはいえ、余裕があるというほどではないのだ。朝食の前にある朝礼に遅れたらまた罰走させられること間違いなしだ。――その上で朝食が水だけになるのだから、あんま惨めなことはない。  ケイシーは幸い罰を受けたのは過去一回だけだが、一部の友人は常習犯だった。世の中にはいるのだ――反省も後悔もせず、夜中にゲームばっかりやって寝坊する馬鹿が。まあ、その馬鹿も彼ららしいと言えばそうなのだけれど。 「あ、ケイシー、おはよう」 「え?」  着替えてベッドを直し、玄関へ向かっていた時だ。その馬鹿、の一人に声をかけられて驚いた。  十五歳とは思えないほどの長身で、筋肉質な友人のデン。瞳と同じ、オレンジ色のツンツン頭が特徴だ。  実力はあるのに極度のゲーム好きが災いして、しょっちゅう深夜にこっそり起きてゲームしては遅刻して教官に叱られまくっている、ある意味究極の猛者である。実技の成績はけして悪いものではないというのに。 「……嘘だろ。デンが朝礼の十五分も前に廊下を歩いている」  ケイシーは思わず茫然と呟いた。 「今日はハリケーンでも来るのか?それともこの時期に大雪か?」 「酷くね!?オレだってやる時はやるんだっつーの!頑張れば起きれるの!!」 「頑張れば、ねえ」  そうは言っているが、どうやらポジティブな理由ではなさそうだった。その目の下には、僅かに隈がある。しかも、なんだか疲れたような顔だ。 「何かあったのか?」  真面目に尋ねると、彼は歩きながら“あー”と明後日の方を見た。 「夢見が悪ぃんだわ。なんだろうな、最近女の人が暴行される胸糞な夢ばっか見てさあ。しかもその女がなんとなくオレに似てるから、余計きもちわりーっていうか」 「待て、お前もか?」 「え」 「俺も最近、嫌な夢ばかり見る。四月になってからだ。」  現在は五月。  誕生日が近づくにつれ、嫌な夢の頻度が増えているような。気のせいだろうか。
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