<20・塗炭の苦しみ。>

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「……その通りです。機体に埋め込まれたイリーシュアの肉体と無意識にコンタクトを取り……さらに無自覚のうちに、貴方たちは魔法の力を使っている。そう、エンジェルの武装の多くは電気でも、根本的な動力は電気ではなく……魔法の力によるもの、なんです。だから、イリーシュアを動かせるのは、イリーシュアの子であり、古代人の子であり、魔力を持つケイシーさんだけなんです」 「……理解は、した。けれど、何かおかしいだろ。俺の夢が正しいなら、イリーシュアは百年前の女だぞ?生まれた俺も、百年前の人間ってことじゃないのか?」  そう、その時間だけが、どうにも合わない。  百年前の人間なら、ケイシーがここで生きていることがおかしい。 「……それは恐らく、貴方がかなり初期の世代だから、でしょう」  トールはリモコンを取り出して言う。 「百年前の実験で、政府は古代人の子を作ることまでには成功した。ですが、恐らくエンジェルの機体をくみ上げる技術までは完成しなかった。あるいは……力が強すぎて制御できなかった。だから、一時的にイリーシュアとその子である貴方をまとめて封印したのではないでしょうか。それも、ごくごく十数年前まで」 「まあ、古代人が土の中に眠って、何千年も封印されていたっていうなら……同じことができてもおかしくはないが」 「……先日暴走をしたサラさんとマウさんも、実はかなり初期の“選ばれし子供”だったということもわかっています。恐らくは、初代に近い者から順々に目覚めているのでしょう。己の母親が利用され、自分達が古代人の子として無理やり産みだされて戦わされている事実を」  確かに、封印、というのは理解できた。  だが、どうにも腑に落ちないことがある。サラやマウのあの言葉。この戦いに意味がない、とはどういうことなのだろうか。  もし母親と己の出生のことで恨んでいるというのなばもっと、許さないとか復讐していやるとか、そう言う方向に感情が向かいそうな気がするが。 「……まだ、何かが引っかかる。いや、ショックはショックだったんだけど、なんか……」  まだショックより、混乱が勝っている。同時に、嫌な予感がひしひしとしているのだ。  まだ何か、もっと恐ろしい何か秘密が残されている、そんな気が。 「とりあえず、ハッチを開けます」  トールは少しだけ躊躇った後、リモコンに何かを打ちこんだ。恐らくは、ハッチを開けるためのパスコードか何かだろう。 「その目で、見てください。貴方を産んだ母親にして……イリーシュアと呼ばれた存在を」 「……ああ」  ブウウウン、と音を立てて開いていくハッチ。やがてケイシーの前に、真実が姿を現したのである。
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