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<21・生殺しの蛇に嚙まれる。>
それは、とても奇妙な亡骸だった。
長い水色の髪。まるで喪服を思わす黒いドレス。それらは一切劣化しておらず、普通の人間が来ているそのままの形状に見える。
それなのに髪の毛の下の顔や、首、ドレスの下から覗く手足は灰色にくすみ、まるで枯れた小枝のような有様となっているのだ。目は落ちくぼみ、もはや眼球もない、完全な空洞と化している。ゾンビというより、その姿はミイラに近いものがあるように思われた。
「これが……俺の、母さん?」
「恐らくは」
何か、妙だった。
血筋の上で言うなら、このミイラは自分の母親であるイリーシュア、であるはずだ。そしてこの残酷な姿。枯れ枝のような手足は多数の配線や配管に飲み込まれ、完全に機体の内部に埋め込まれてしまっているのがわかる。あまりにも無惨な女性の姿。しかもそれが母親。ショックを受けていないというより、何かが“違う”と感じるのだ。
ショックはショックなのに――違う。
母親というより、もっと近い、何かであるような。
――なんだ、これ。
全身に、ねっとりと生ぬるい汗が噴出していく。
――何か、すごく、嫌なことを思い出しそう、な……。
「ケイシーさん?」
トールの声が、妙に遠い。
ケイシーは無自覚に、そのミイラに手を伸ばしていた。自分がイリーシュアと呼んでいた機体、そのエンジンと化していた女性。母親であるはずの女性。
いや、違う。
母親じゃない、これは。
――これ、は。
彼女の髪が、僅かケイシーの指先に触れた。その瞬間――バチバチバチバチ、と脳内で火花が散ったのである。
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