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『痛い痛い痛い痛い、お腹、痛い、痛いっ……!』
私は脂汗を掻きながら、どうにか廊下を歩いていた。僅かにお腹が張ってきた段階で、この症状はなんだろう。悪阻とは違う。もっと根本的な問題が、この身に起こっている。私は確かに妊娠して、子宮の中に望まない赤子を宿しているはずだった。なのにこの体が、その赤子を明らかに異物とみなしている。そして赤子も、母親であるはずの自分を攻撃しているかのよう。
研究者や医者は言っていた――根本的に、性質が違うものであるせい、だと。
あまりにも人間に、犬や猿の子供が産めないのと同じ。本来ならば遺伝子が僅かでも違えばその子を孕むことなどない。それを、無理矢理魔法の力ですり合わせている影響だと。
同時に、古代人の子の魔力が、魔力をほとんど持たない人間に害を齎している可能性が高い。
そこまでわかっていながら、研究者たちが言う言葉は一つ。とにかく出産まで耐えろ、それだけだった。堕胎も早産も絶対に許さない、死んでもいいから産めという。
冗談じゃなかった。何で自分が、愛する人の子でもなんでもない存在を命を捨てて産み落とさなければならないのか。何故自分なのか。これは一体、何の罰だというのか。
『誰か、助けてくれ……わた、しは……!』
とにかく、痛み止めだけでも貰わなければ。そう思って体を引きずるようにしながら廊下を進んでいた、その時だった。
『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!』
凄まじい、悲鳴。ぎょっとして顔を上げる私。それは、すぐ近くの部屋から聞こえてくるようだった。何が、と思って近くの部屋を覗う。窓の隙間をわずかに開けるだけで、仲の様子が見えた。
それは、自分と同じように捕まったと思しき若い女性だった。
金色の髪を振りみだし、ベッドに縛り付けられた状態で暴れている。彼女は腹がはちきれんばかりに膨らんでいた。自分と違い、既に臨月を迎えていることは明らかである。
異常なのは、その腹にいくつもの赤い筋が走っていること。大きく開かれた股間が真っ赤に染まっており、断続的に血を噴き出していることだった。
『いだいいいいいいいいいいいいいい!いだい、いだい、いだいいいいいいいいいいいい!さげじゃう、おなか、さげじゃう、ううう、ううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!』
『おい、これはどういうことだ?』
『先ほど胎児のエコーを見たが、これは……』
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