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『まあ、失敗ということだろう。人間の姿をしていない。やはり、完全に適合できるのはごくごく僅かか。まともに意思疎通ができる“人間”を産んでくれなければ意味がないというのに』
『うううううううううううううううううううう、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!』
『ああもう、煩いな。出産くらい静かにしたまえ』
男たちは、苦しんでいる女性をまったく心配する素振りもない。
やがて、恐れていたことが起きる。彼女の腹から、ぶちぶちぶちぶち、と引き裂けるような音が聞こえてきたのだ。あまりの苦痛に、女性が白目をむき、泡を吹き始める。巨大な腹の皮膚が、肉が、音をたてて裂け始めたのだ。
黄色い脂肪が見えた、と思った次の瞬間――それ、は風船のように破裂し、中身をぶちまけた。
『うわ!?』
男達の周囲に、血と肉が飛び散る。うぐ、と思わず私は口元を抑えた。さすがに窓の方まで血は飛んでこなかったが、それでも凄まじい臭いはわかる。血と肉と排泄物と、何やら腐った沼のような臭い。これはなんだ、と思って恐る恐る女性の方を見て、気づいた。
『あががが、が、が……』
引き裂けた腹の中身をぶちまけ、虫の息で痙攣する女性。その割れた腹の中からむっくりと頭をもたげたそれは――到底、人間の姿には、見えなかった。
モンスターだ。
大きな芋虫のようなものが、うねうねと血まみれの体を揺さぶっている。
『ぎい、ギイイ……』
産声の代わりに上げるのは、軋んだ鳴き声。
なんてことだ。あれだけ苦しんだ果てに、彼女は化け物を産み落としてしまったというのか。
『ああもう、最悪だ。化け物な上に、言葉も通じそうにない!くっそ、全身臭くなったじゃねえか』
死にかけている女性のことなど気にも留めず、研究者が吐き捨てる。
『本当に、怪物が生まれる確率が高くて嫌になる。何が問題だ?ちゃんと、遺伝子が適合しやすい女を調べて攫ってきてるはずなのに』
『年齢とか、出身地とか、血液型とか他にも条件があるのかもな。調べてみるしかないだろう』
『とりあえず、このバケモンと……この女はどうする?』
『まとめて捨てておけ。どうせ、その女は助からん。ったく、二、三人産んでからくたばってくれればいいものを……』
――怪物?私のお腹の中にも、怪物がいる、のか?
恐る恐る己の腹に手をあてる。もぞり、と子宮の中で何かが蠢いたような気がした。
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