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わかってしまったことが、いくつもある。
攫われてきた女性は、私以外に何人もいる。北側諸国で捕まえた奴隷の女もいれば、南側諸国の国民もいるようだ。全員が古代人の子を孕まされ、毎日腹の痛みや倦怠感に苦しみながらこの施設に閉じ込められているらしい。
女性同士での交流は、ある程度なら許可されている。どうせどこで話しても監視カメラからは逃れられないが。
『……古代人と人間の子供が“ちゃんと”出来上がる確率は、そう高くはないみたいなの』
女性の一人が、私に教えてくれた。
『半数以上の女性が、妊娠中に形成不全を起こして……お腹の子がモンスターになってしまう。そして、モンスターになってしまうともう母体が耐えられないから、普通に出産することもできずにお腹が破裂して死に至ることもあるって……』
『そ、そんな……』
『そして、どうにかまともに見える赤ちゃんが生まれても、それで終わりじゃないみたい。……あたし、見たのよ。赤ちゃんを産んだ女性がどうなったのか。本当に苦しいお産だったみたいで、まるで枯れ枝のような体になっていて、しかも……』
『しかも?』
『け、研究員が言ってたの。……生まれた赤ん坊に魂が入ってないって。だから、魂を入れないと、使い物にならないんだって……』
そんな、と私は絶望的な気持ちになった。
例え望まずに孕んだ子でも、己の子供であることに変わりはない。苦しくても、産んだならばちゃんと愛さなければと、そう思い始めていた矢先だったというのに。
せっかく子供を産んでも、その子に魂が入っていない?
それでは、何のために自分達はこんなところに閉じ込められて、こんな怖くて苦しい思いをしているのか。そして、その赤ん坊を、一体軍はどうするつもりなのか。
『……多分あたし達は……子供を産んでも、モンスターを産んでも、死ぬんでしょうね』
彼女は涙をこぼしながら、私に訴えたのだった。
『ああ、なんで、あたし達ばっかりこんな目に?……この赤ちゃんも、きっとろくな目に遭わないのよ。魂を入れるとか、それをどうやるのかは知らないけど……でもその後はきっと、この子も実験動物にされて、使い潰されて死ぬんだわ。あたしも、望まずに産んだこの子を守ることもできずに死ぬの、それが、全部戦争の為だっていうのよ?人を殺すためだっていうの。救われないわ、こんなこと』
『そん、な……』
『イリーシュア。貴女は、検査で順調だと言われたんでしょう?……生まれてくるのが人間なら、まだ生き延びる余地もあるのかもしれない。でも、どっちにしろこの施設にいたらみんな地獄に落ちるだけ。……逃げる方法を、探した方がいいかもしれないわね』
そんな彼女はこの話をした三か月後――モンスターにお腹を食い破られて死んだ。
彼女が産み落としたモンスターは、まるで機械の船のような、奇妙な形状をしていたという。
そして、私は。
『イリーシュア。君はきっと、元気な赤ちゃんを産むでしょう。もう性別も分かっています。男の子だそうですよ。でもやはり、魂が入っていないのは間違いないようで』
ですから、と。医者は笑顔で、とんでもないことを告げてきたのだ。
『なんとしてでも、赤ちゃんに生きてほしいでしょう?お母さんですものね?』
私は、その言葉を茫然と聞くしかなかったのだった。目の前の、眼鏡をかけたニコニコ顔の男が人間ではない何かにしか見えない。
ああ、誰だっただろう、こんなことを言っていたのは。
――地獄はいつだって蛻の殻だ。全ての悪魔は、地上にいる……。
こいつらは、悪魔だ。
何故悪魔のために、私達は犠牲にならないといけないのだろうか。
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