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***
「あ、ああああああああっ!」
痛い。
ケイシーはその場で、腹を押さえて蹲った。
痛い。痛くてたまらない。この体にはもう、痛みを与えるだけの子宮なんてないはずなのに。このお腹の中に、子供なんていないはずなのに。
「け、ケイシーさん!?どうしたんですか!?」
トールが心配そうに肩を支えてくれる。ぜいぜいと息をしながら、ケイシーはどうにか顔を上げた。間違いなく今、自分はとてつもなく酷い顔をしていることだろう。今にも死にそうな顔なのか、あるいは誰かを殺しそうな顔なのかはわからないが。
「……全部、思い出したんだ」
「お、思い出したって?」
「……トール。……君が、教えてくれたことは全部正しい。百年前、イリーシュアは誘拐されて、古代人の子を身籠った。そして、その子供を産んだことと引き換えに苦しみ抜いて、ミイラのような姿になって死んでいったんだ。そしてその遺体はこうして機体に組み込まれ、エンジェルの動力にされた」
古代人の子を産んだ母を動力に、その子をパイロットに。それで初めて、この魔導力で動く特殊な機体が動かせる。魔法の力を使って無尽蔵に敵を屠ることができる。それが、エンジェルという機体を作った連中の想定だった。
だが一つ、致命的な問題があったのだ。
「だが、人間と古代人の間に生まれた子供には致命的な弱点があったんだ。……魂がその肉体に入っていなかった。つまり、産まれたはいいが、ほぼ植物状態だったんだ。そんな子供をパイロットにすることなんてできない。だから……最終的に、奴らは悪魔のような所業に打って出た」
否。今までの時点で充分悪魔だったが、それ以上に。
「子供を産んで瀕死の母親の肉体から……魂と意識を引きずり出し、無理矢理子供の中に入れたのさ」
ああ、そうだ。
全部全部思い出した!
「許せない……ああああああ許せない、許せない、許せない!あいつら、“私”をこんな目に遭わせて、あんな苦しい思いをさせて子供を産ませて、私の亡骸まで蹂躙しやがって!そのくせ、今度は子供の体を使ってパイロットとして戦争の兵器となって働けだと!?ふざけるな……ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!」
「ケイシーさん、あなた、まさか……」
「そうだ。俺は……俺は、“私”だ。イリーシュアとしての記憶を消されていただけだったんだ。ふざけた真似を……私の息子の体に、私の魂をぶちこんでまだ働かせるとは……!」
それだけじゃない。
ぎりりりり、と握りしめた拳に、爪が食い込んだ。あまりの怒りに、自分で自分が制御できない。
理解できてしまった。サラは、マウは、自分と同じ記憶を思い出したのだ。だからその記憶に耐えられずに錯乱した。自分達が見ていた悪夢――あれは、まさに前世の“母親だった”女の記憶。あれは、記憶が蘇りかけている前兆だった。
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