<23・窮鼠猫を嚙む。>

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 さっきの言葉と、今の言葉。それである程度察してしまったのだろう。ナンシーの顔色が、紙のように白くなっていく。  まだ彼女は、サラが戻ってくることを信じていたはず。コンラッドが頑張ってくれると言ったのだから尚更に。その希望を奪いたくはなかった。でも。  もし、彼女に全てを知らせるのなら、伏せていたところで意味などない。どうせ、全部わかってしまうことになる。 「ナンシーは、どうする?」 「ど、どうする、って……」 「俺はこの真実を飲み込むために、あらゆる理性を動員しているつもりだ。本当は怒り狂って暴れたくなるところを必死で抑えている。……抑えられずにパニックになったせいで、サラとマウは暴走し、露見してしまったのだろう。もしナンシーがこの真実を知らなければ、まだしばらくは今のままの生活が続けられると思う。……戦場で早々に死なない限り、いずれ現実を思い知らされるだろうけどな」  知ったらもう、戻れない。  それでもナンシーもまた、選ぶしかない場所にいる。否、ナンシーだけじゃなく、デンやシュラ、コンラッドもみんなみんなそうだ。エンジェルのパイロットたち、全員に選択権は与えられて然るべきなのだ。  知ってもなお、何も知らないフリをするという者も僅かにいるのかもしれない。  けれど恐らく多くの者が、知ってしまえばもう今まで道理に政府に従順でいることなどできないだろう。その後はほぼ二択だ。あまりの真実の重さに潰されるか――それを背負ってなお、己の使命を果たそうとするか。 「ナンシーが俺と一緒にいたいなら……ナンシーも真実を知って、俺と同じ道を選ぶしかない。だから、決めてくれ。他の皆にも話すつもりでいる。それでもナンシーに、一番最初に話すべきだと思った。苦しめるかもしれないけれど、それでも……君に、ちゃんと選んでほしいと思ったから」 「け、ケイシー……」  ナンシーの視線が泳ぐ。  昨今の軍の状況。サラの謎の失踪――ひょっとしたら殺されたかもしれないという現実。そして、意味不明な悪夢と、不可解な任務。  疑念を抱く余地は、今までいくらでもあったはずで。 「……あたし」  やがて、ナンシーは泣きそうな顔で言った。 「あたしは、ケイシーと……あんたと一緒に、いたいよ」 「……そうか」  あまりにもいきなりな話だったというのに、よく決断してくれた。ケイシーは立ち上がると、そっとナンシーの肩を抱き寄せる。  世界は滅び、再び生まれ変わることだろう。  そのカウントダウンは、既に始まっている。
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