<24・掉尾の勇を奮う。>

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 北の大国の部隊は、自分達の方とは違い女性の名前がそのままつけられていることが多い。レギーナ隊などは、先の北方戦線でドラゴン三体を相手に無双したとも知られる最強の部隊の一つだったはず。それが反乱を起こしたというだけでも大問題なのに、よりにもよって他にも二つの部隊が反旗を翻し、あまつさえ他にも行方をくらました隊があろうとは。  これが、北の大国だけのトラブルで済んでいればまだいい。今は休戦かつ同盟に近い状態にあるとはいえ、南側諸国に害が及ばなければ対岸の火事と笑ってみていることもできるからだ。  だが、残念ながら自分達はそこまで馬鹿でもなければ楽観的でもない。  そもそもレギーナ隊らは、元々北の山で出たモンスターの討伐を命じられたはずなのだ。そのモンスター達を倒すどころか、モンスター達を引き連れて反乱を起こしているのである。  それが何を意味するのかわからないほど、愚かなつもりはない。  何故ならこの会議室にいる者達は全員知っているからだ――このエンジェルという兵器がどのようにして作られているのかを。そしてそのパイロットたちに隠された秘密を。 「……確かに、昨今は我々南側諸国も、エンジェル部隊のパイロットたちに嫌な兆候は出ていましたな」  少将の一人が呟く。 「自らの“前世”の記憶を蘇らせて、夢で見た者が何人もいるとか。……いえ、それを、馬鹿馬鹿しい夢だと思っているうちはなんの影響もないのです。しかしながら、ミカエル隊やサキエル隊などには、夢が前世の記憶だと気づいてしまい、発狂して処分された者もいるようで」 「まったく、馬鹿なガキどもだ。何も知らずに軍に従って戦っていればいいものを!」 「記憶が稀に蘇ることがあるのはわかっていましたがなあ。特に、前世で子を孕んだのと同じくらいの年齢になると、蘇りやすくなる、と。十六歳が多いのでしたっけ」 「最近悪夢を見ると報告する者が増えていて、警戒は必要だったと思われます。恐らくは、魔法の封印が解けてきているのかと」 「くそ……あの古代人め!もっと強力な魔法を教えればいいものを!」  母親から魂を引きずり出し、魂がない状態で生まれてきた子に埋め込むこと。そしてその記憶と人格を消去すること。それらは全て科学の力ではなく、古代人から聞き出した魔法で行ったことであった。  そもそも、古代人は眠りから覚めたはいいが、当初から自分達人類に協力的だったわけではないと聞いている。それもそうだろう、連中からすれば新人類は自分達の同胞を滅ぼした仇。簡単に協力などしたいはずもない。
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