<24・掉尾の勇を奮う。>

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 *** 『なんて、会議でもしてたんだろうなー』  はあ、と通信の向こうでデンがため息をついた。 『あーもう、くっそ……本当にムカつくぜ。ていうか、“あたし”の記憶を取り戻してこの方、腹が痛くてしょうがねえのなんとかならねえか?幻肢痛みたいなもんだろ、これ』 「痛み止め飲んでもいいと思うぞ。俺は飲んだ」 『あー、効くんだソレ。オレもそうすべきだったかー……あてててて』  本当に痛いな、ほんとにな、と隊員たちの声が次々上がる。奇妙なものだ。エンジェルのパイロットたちには女性もいるが、男性の方が圧倒的に多い。その男達が総じて、無いはずの子宮が痛むなんて話をするのである。  全員が、元々“女性”であり、女性としての自分を踏みにじられた記憶を取り戻したからこそ。  中には、妊娠した後で研究者たちに永続的に性的暴行を受けていた、なんて者もいたようだ。本当に、腐っているとしか思えない。 『お前たちに確認する』  現在自分達はエンジェルに乗って、南の海を渡り北の大地へ向かっているところだった。波が少々荒れているので、全員空を飛んで移動中である。まるで本当の天使になったかのように。 『我らが司令官から降りてきた命令は……北の国で反乱を起こしたエンジェル部隊と、その仲間となったモンスターを殲滅しろとのことである』  通信の向こうから聞こえる、コンラッドの声。 『ラファエル隊、サキエル隊は今回も王都防衛。それ以外のエンジェル部隊、全てが今回の作戦に動員された。……確実に敵戦力を殲滅したい、というお上の意図が透けているな』 『まあ、まずいんだよね絶対。北の反乱軍をさっさと口封じしないと、他のエンジェルのパイロットたちに何吹き込むかわからないもんだからさ。……とはいえ、エンジェル隊を倒せるのが同じくエンジェルに乗ったあたし達しかいない、ってのが滑稽だけど』 『そうだな。だからこそ……いくらでも戦いようがある、というものだ』 「ああ」  コンラッドとナンシーのやり取りに、頷くケイシー。 「俺達はこのまま……命令に従って北の大国最南端の都市、クマセリに向かう。そこで……あちらで待機している、ヴェロニカ隊と合流する」  全員、わかっている。  命令に従う気などさらさらない。自分達は北の反乱軍を殲滅するために来たふりをして、実際は反乱軍に合流しようとしている。そこでまずは、北の最南端の都市、クマセリのバリアを破壊。街を自分達で占拠するのだ。  町の人達には気の毒だが、出て行くか協力するかを選んでもらう他ないだろう。あの町は、自分達にとって最初の、そして最も重要な拠点となるのだから。 ――トールをはじめ、反乱の地下組織は……南北の諸国合わせて、大きく広がって根を張っている。協力者はいくらでもいる。あとはもう、タイミングを待つだけだったわけだ。 「……みんな」  ケイシーは、共に空を舞う戦士たちに呼びかける。 「本当に、ありがとう。……でも、後悔していないか?俺がみんなの記憶を呼び覚まさなければ、何も知らずに軍で美味い飯が食えていたんだろうしさ」  自分達はもう、故郷には戻れない。  だが、元々孤児だったので、気を使わなければいけない家族など殆どいない者達ばかり。人質にされるような存在もない。  未練がないわけではないけれど、それでも。 『でも、ケイシーが教えてくれなかったらあたし達、一生あいつらの兵器で、奴隷で、玩具だったわ』 『その通り』  ナンシーの言葉に、シュラも頷く。 『感謝する、ケイシー。……私達は、人間。一人の人間としての誇りを取り戻すために、此処にいる。共に行こう……この悪夢を、我々の手で終わらせるために』 「ああ。……ありがとう!」  それから、ほんの二時間後のことである。  北の大国、その最南端の町クマセリシティが、多数のエンジェル部隊によって占拠された。  そしてそのまま、天使たちは新たな国の建国を宣言することとなる。それはモンスター達がけして牙をむかない、誰も尊厳を傷つけられない唯一の国。  国の名前は、“ラスト・エデン”。  機械の天使が守る、理想郷だ。
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